Sentimental Quest - 傷心聖女の地域興しクェスト -
ひとえあきら
01 - ありがちなプロローグ
「――もう別れよう。婚約も白紙だ」
全くの想定外の彼からの言葉に、世界は一瞬、真っ白になった。
なんだこの台詞。
まるで何処かで聞いたような、いっそ聞き飽きたとすら言ってもいい、台詞――。
これは何かの罰なのだろうか。
私が今まで散々ぱら彼女たちにしてきた仕打ちに対する、これが罰――。
そう思うと、腹の底から笑い出したいような衝動がせり上げてくる。
頭の方では泣き出しそうになる両眼を必死に宥め賺してるってのに、感情は内臓に宿るって案外、正鵠を射てるのかしら。
理性では妙に冷静に俯瞰している割には腐乱死体のようにぐちゃぐちゃになった感情の処理を持て余して、結果、泣きも笑いも出来ず無表情に黙りこくっている私を物の怪か何かを見るような幾分引いたような様子で彼は妙に早口に言葉を続けているが、最早、何を言ってるか全くこれっぽっちも頭に入ってこない。あぁ、人間の脳も処理がオーバーフロウしてフリーズすることってあるんだな――と、幾分呆けた頭で取り留めも無く思考を垂れ流していると。
「――だから、それだよそれ! その辛気臭いうえに何考えてるか解らねぇのは、もう耐えらんねーんだよ!」
最後に大声で、これで締めだとばかりに決め台詞をぶっ込んできた。
「――そう、だったの。ごめんね――」
「あー! まただ! もっとこう、泣くとか怒るとかすりゃ可愛げもあるってのによ!」
「そんなこと言われても――」
「――と、とにかく、そういう訳だからっ! じゃぁなっ!」
しゅた! と勢いよく右手を上げて彼は車の方へ走り去って言った。
彼のご自慢のキラキラとドレスアップされた紫色の大型ミニバン。ミニなのに大型とはこれ如何に。まぁどうでもいいけど。
そのミニバンの助手席、この間まで私の指定席だったそこには誰かが座っている。
彼の会社のパーティーで何度が見かけた顔だ。確か地元の代議士の娘さんだったか――。
あぁ、そういうことなのね。
全く嫌になる。
嫌になる、といっても彼がとか自分がではなく。
彼がああいう性格なのは解った上での婚約話だったし、私のこの性格だって今更どうこう出来る物でも無い。
嫌になるのは、このあまりにもテンプレが過ぎる幕切れだ。捻りも何もありゃしない。これじゃネタにもならないよ。
ネタにもならない――と思った瞬間に習い性という奴で無意識にスマホを取り出して投稿小説サイトのアプリを開いていた。
トップ画面のド真ん中にあるそれを開くと手慣れた指捌きで更新チェックを始める。
お気に入りの小説が何件か上がっていたのでつらつらと読み、自分のプロファイルページをチェック。馴染みの読者さんから何件かコメが入っていた。あぁ、皆さんいつも通りで、こんな時は癒されるなぁ――。
こんな時――ネタにもならない、なんて言ったけど、そもそも暢気に小説書いてる状況なの私!? いや、状況じゃ無い(反語)。
取り敢えず、近況報告だけでも。
¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ † ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ †
『黒騎士さんの近況報告:20**年12月11日
日頃からお読み頂き、励まして頂いている皆様。
一身上の都合により暫く更新を休みさせて頂きます。
落ち着き次第お知らせ致しますので、見捨てないで~。・゚・(ノД`)・゚・。』
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