リアルタイムアタックin迷宮都市〜パーティを追放されてから最速で真のざまあを成さないと、世界滅亡のループから抜け出せない!?〜

ツネキチ

前編 追放

「アッシュ。君をこのパーティから追放する」


 普段であれば賑やかな喧騒に包まれている酒場。


 しかしその日は違った。なぜならこの迷宮としで今最も注目を集めているパーティ『栄光の光』がを糾弾するために重々しい雰囲気を放っていたからだ。


 酒場中の注目が集まる中、パーティのリーダーである金髪の男、グレンが神妙な面持ちで僕の追放を宣言した。


「うん。わかった」

「……え?」


 唖然としたグレン。まさかこんなにあっさりと受け入れるなんて、そんな表情をしている。


「じゃあ、僕は行くよ」


 背を向けて歩き出そうとする。そんな僕に後ろから声をかけてきた。


「ちょ、ちょっと待ちたまえ!」

「あ、そうだったそうだった。装備だね。大丈夫、ちゃんと置いてくから」


 そう言って僕はなんの躊躇いもなく装備を取り、彼らの座るテーブルにポイっと放り投げる。


「それじゃあ、僕はこれで」

「待ちたまえ! アッシュ!」


 再び背を向けた僕をグレンが引き止める。


「なんだい? まだ僕に用が?」

「わかっているのか? 君を追放するんだぞ!?」

「うん、わかってるわかってる」

「ならばなぜ! そんな簡単に受け入れられるんだ」


 うるさいなあ。一体何を期待していたのやら。


 まさか悔しがるとか、捨てないでくれと惨めに縋るような反応を僕がするとでも。


 ありえない。グレンは知る良しもないだろうが、このパーティからの追放を言い渡されるのは、これで200。今更なんの感慨も湧かない。


「もう用がないなら本当に行くよ」

「ま、まてアッシュ……」


 待たない。


 後ろで何か言っているグレンを無視して僕は酒場を後にした。


 彼に構っている暇などない。1秒でも早く『ざまあ』を成さなければ。


 そしてこのクソッタレなループを終わらせるんだ。




 記念すべき第一回の追放宣言はこんな感じだった。


「アッシュ。君をこのパーティから追放する」

「な、なんだって!?」


 今思えば、その時の僕はなんて初々しかったのだろう。まさしくグレンが期待していた通りの反応だ。 


「聞こえなかったのか? 君には我ら栄光の手から去ってもらう」

「そ、そんな! どうして!?」


 すがる僕を見てグレンは口の端を歪めた。


「そんなこと決まっている。君が無能だからだ」

「っ!?」


 告げられた理由はあまりに無慈悲なものだった。


「おいおいグレン。そりゃはっきり言い過ぎじゃねえか?」


 そう言いながらも僕を嘲笑するのはパーティの盾役、ドンだった。


「ドン、はっきり言ってやらなきゃこの無能君にはわからないでしょ」


 はっきりとした侮蔑の視線を僕に向けてくるのは、胸元が大胆に露出したドレスを着る攻撃的な魔女、ハンナだ。


「ハンナの言う通りです。彼にはこの際しっかり理解してもらわないと。自身の無能さというものを」


 こちらに目も向けないのは、パーティの治療を一手に引き受ける僧侶の男、イワンだ。


「そんな! 僕はこれまでみんなの役にーー」

「役に、なんだ? お前がやってきたのはただの雑用じゃねえか」


 ドンの言う通りだった。僕のこのパーティでの役割はただの雑用。


「雑魚スキルのお前が戦闘で役に立ったことなんて一度でもあったか?」


 そう言われて何も言い返せなく、ただ俯くことしかできなかった。


 人はみんな、15歳になると神からスキルを一つだけ授かる。スキルの内容は千差万別、役に立たないものから、持っているだけで人々から尊敬を集めるような神スキルまで様々だ。


 そんな中僕に与えられたスキルは『忍び足』文字通り気配を察知されにくくなるスキルだ。


 決して役に立たないスキルではない。しかし比較対象が悪かった。


 ドンが持つスキルは『絶対防御』自身が持つ防具の防御力を極限まで上昇させる、盾役としてはこれ以上ないスキルだ。

 ハンナが持つスキルは『魔導の真髄』無限とも思える魔力とあらゆる攻撃魔術の適性を与えるとんでもないスキルだ。

 イワンが持つスキルは『癒し手の光』対象が生きてさえいればどんな傷でも回復することができる破格のスキルだ。


 そしてパーティリーダーのグレン。彼の持つスキルは格が違う。


『勇者』


 世界でも唯一、伝説の中にしか存在しないと言われていたスキルだ。


 規格外のスキルを持つ彼らは短時間でこの迷宮都市において有数の冒険者パーティへと駆け上がった。


 彼らと比べたら僕のスキルなんてどうしても霞んでしまう。


 それに加えて僕は非力だった。剣もまともに触れないためどうやっても戦闘では役に立たない。


「た、確かに戦闘では役に立たなかったかもしれないけど、それ以外はなんでもやってきたじゃないか!」


 僕にできることはなんでもやった。パーティの炊事洗濯、野営の設営、迷宮攻略のための買い出し、魔物の剥ぎ取り、荷物持ち。


 全て僕1人でこなしてきた。自惚れるわけではないが、僕がいなかったらこのパーティはうまく機能しないだろう。


「僕が抜けて、一体誰がそんなことをやれるって言うんだ!」


 僕は必死に自分の有用さをアピールした。


 しかし、グレンはそんな僕を鼻で笑った。


「これを見ろ」


 そう言って彼は懐から小さな袋を取り出した。


「そ、それはまさか」

「そうだ、次元袋だ」


 次元袋。


 ごく稀に迷宮でドロップする容量が無限に存在するアーティファクトだ。


「まさか、買ったのかそれを!?」

「そうだ」


 買おうと思ったら家が何軒も経つほどの金貨が必要となる。


「わかるかアッシュ。これ一つあれば荷物持ちはいらなくなるんだ。魔物の剥ぎ取りだって討伐した魔物をそのまま袋に入れて持ち帰ればいい。お前は必要なくなるんだ」


 その小さな袋一つに、僕は負けたのだと悟った。


「……どうしても僕を捨てるのか、グレン?」

「そうだ」

「昔、子供の頃、一緒に最高の冒険者になろうと誓ったよね。あの約束はどうなったの?」


 情に訴えかけようとした。しかし、グレンは冷たい眼差しのまま切り捨てる。


「お前には無理だ、アッシュ」


 ああ、本当に僕はいらないんだ。


 どうしようもなく悲しくなった僕は、背を向けてその場を去ろうとした。


「アッシュ」


 去ろうとする僕にグレンが後ろから声をかけてきた。


 その声に一縷の望みを託して振り返ったが、現実は非常だった。


「装備を全て置いていけ。それは全て我ら栄光の光の物だ」


 その言葉に僕はカッとなった。


 装備を剥ぎ取り投げつけるように渡した後、僕は走り去った。


 後ろから聞こえてくる笑い声が、悔しくて悔しくて仕方なかった。 

 


 それからの僕はひどいものだった。


 現実を受け止めきれず酒に溺れた。自らを顧みず、昼夜問わず酒瓶を片手に持ち堕落し続けた。


「ちくしょう、ちくしょう……!」


 飲んでも飲んでも気が晴れなかった。


 今までパーティに尽くし続けていた。


 戦えない僕の報酬が彼らと比べてとても少ないことにだって文句は言わなかった。


 みんなの我儘だって何も言わずに黙って従ってきた。


 パーティ以外の人間から『あいつは栄光の手の小判鮫だ』なんて悪口を散々叩かれていたことも知っているが、ずっと耐えてきた。


 その果てがこれか。僕の今までの頑張りはなんだったのか。


 悔しくてたまらないこの気持ちを誤魔化そうと、飲めもしない酒を無理やり口にしては吐くような生活を送った。


 当然と言うべきかそんな生活が長く続くわけもなく、3ヶ月も経つ頃には昔からコツコツと貯め続けてきた貯蓄は底を尽きかけていた。


 そして僕は迷宮都市を去ることになった。スキルを授かってからがむしゃらに頑張ってきた冒険者生活に終わりを告げたのだ。


 夢敗れた僕は、故郷に帰る乗合の馬車から最後に一目迷宮都市を見ようと、遠くに見える迷宮都市に目をやった。


 その時だった。


「え?」



 迷宮都市の中心から、天を貫くほどの火柱が立っていた。



 その火柱は次第に大きくなっていき、やがて迷宮都市を飲み込んだ。


「ちょ、ちょっと!」


 火柱は際限なく大きくなっていき目前まで迫ってくる。


「ま、待っーー」


 そして、熱いと感じる間も無く僕を飲み込んだ。


 

 気がつけば僕は真っ白な空間にいた。


「こ、ここは?」


 訳が分からなくて混乱する僕に声がかけられた。


「目が覚めましたか、アッシュよ」


 振り向くと、そこには見たこともないほど綺麗な女性がいた。


「あ、あなたは?」

「私は女神です。そしてここは生の世界の果てにある世界です」

「め、女神様? じゃ、じゃあ僕は死んだのですか?」

「あなただけではありません。あの火柱は世界の全てを飲み込み、世界は燃やし尽くされてしまいました」

「そんな!」


 絶望のあまり崩れ落ちた。


「あの火柱は一体なんなのですか!?」

「あの火柱は神の怒り。この世界を観測するとある神々の神罰、大炎上です」

「大炎上、神の怒り……」


 なぜそんなことに?


 その疑問に女神様は答えた。


「それはあなたが所属していた栄光の光に原因があります」

「グレン達に?」

「はい、栄光の光はあなたを追放してから落ちぶれていきました。あなたは確かに戦闘には貢献していませんでしたが、それ以外の全てはあなたが行なっていました。あなたを追放したことで戦闘しか能のない彼らは次々とクエストを失敗していった」

「で、でもグレン達には次元袋が」

「次元袋は有用なアーティファクトですが、あなたの代わりにはなり得ません。彼らは迷宮に潜る時の食糧を豪華なものにしようと高級店で作らせたものをそのまま次元袋に入れたせいで腐らせて飢餓に陥りました。討伐した魔物をそのまま血抜きもせずに収納したせいで素材をダメにしていました。何よりあなたが彼らを先導して迷宮を攻略していたおかげで、彼らは罠にかかることもなく魔物に囲まれることもなくクエストを達成していたのです」

「そ、そうだったのか」


 知らなかった、彼らが落ちぶれていたなんて。この3ヶ月酒浸りだったせいで気づかなかった。


「そ、それでグレン達は何をしたのですか?」

「クエストに失敗し続けた栄光の光は起死回生を図ろうと無理な迷宮攻略に挑み、その結果転移の罠に巻き込まれました。そして偶然にも神々の祭壇に迷い込んだのです」

「神々の、祭壇」

「そこで彼らは愚かにも祭壇に祀られた宝物を盗み出したのです」

「だから、神々が怒った?」

「そうです。結果として世界は炎上しました」


 なんてことだ。栄光の光のせいで世界が滅んだなんて。


 顔を覆って絶望する僕に、女神様は優しく語りかけた。


「安心してください、私が時を戻して世界を元通りにしました。あなたも生き返ることができます」

「ほ、本当ですか!?」


 思ってもいなかった話だった。さすが女神様!


「あれ? じゃあなんで僕はここに?」

「あなたには一つの使命を与えます」

「使命 ?」

「世界は元通りにしましたが、救われたわけではありません」


 救われたわけではない?


「神々は時が戻る前の世界を覚えている。栄光の光が犯した蛮行を決して忘れていません。やがてまた世界を滅ぼすでしょう、私がどれだけ世界を元通りに戻そうが何度でも」

「じゃ、じゃあどうすればいいんですか!?」

「そのための使命です。あなたには神々の怒りを鎮めてもらう必要があります」


 神々の怒りを鎮めるだって? 一体どうやって?


「あなたは神々に代わって栄光の光に裁きを、『ざまあ』を成さなければならないのです」

「ざ、ざまあ? 」

「それもただの『ざまあ』ではありません。『真のざまあ』を成さなければ世界は何度でも滅ぼされてしまいます」


 女神様の言っている意味がわからなかった。


「女神様、ざまあとは一体なんなのですか?」

「『ざまあ』は神々が最も好むもの。虐げられてきた者が見せる最高の逆転劇。成り上がり、下克上、復讐。方法は様々ですが、どんな手を使ってでも『真のざまあ』を成して、神々を満足させなければなりません」

「神々を、満足させる?」

「そうです。そして神々はひどく気が短い。あなたには最速で『真のざまあ』を成す必要があります」


 真のざまあ。


「あなたには複数のスキルを捧げます。このスキルを使い世界を救うのです」


 待ってくださいーー


 そう言おうとするとが、意識が急に遠くなっていった。




「ーーは!」


 気がつけば僕は酒場にいた。


 見覚えのある光景。目の前には栄光の光の面々が僕を糾弾するかのように集まっていた。


「アッシュ。君をこのパーティから追放する」

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