第25話 「追いかけっこ2」
薄暗いフロア内を教えてもらった通りに三人で4階まで登っていき、ウタには今登ってきた階段を塞いでもらい、樹には一つだけある窓のほうを塞ぐように立ってもらう。
これで簡単には逃げられないはず。
さて、ここからどうやってこの広いフロアの中に隠れてる人を炙り出そうかと考えたが、影なら適任のやつがいる。
『バク』
〔任セロ〕
その一言の後、フロア中の影が歪み
「うわっ!!」
すると、一つの物陰から蠢きまとわりつく影に取り込まれそうになったであろう女が転がり出てきた。
すかさず捕まえようと手を伸ばしたが
『っっっ!!』
間髪入れずに蹴りが飛んできたのでその場から距離をとる。
薄暗いビルの中でうっすらとしか相手を認識できないので表情は伺えないが、息を乱してる様子はない。
普通なら恐怖や緊張で少しくらい呼吸が乱れると思うのだがそれがないので一般人でないことは確定だ。
異能が無いのにこの状況でここまで動けるということは、元の身体能力が高いのだろう。
ウタと樹も隙があれば拘束しようと機会を伺ってはいるが、正面にいるこの人は隙が無く迂闊に手を出すと逆にこっちが被害を受ける。
ジリジリと距離を測りかねてたその時
ビュッッ!
暗闇の中からレンガが飛んできた。
最小限の動きでそれを避けると視界に入ってきたのは鉄パイプ。
薄暗く周りがうまく認識できないこの状況で音もなく鉄パイプを拾い殴りかかってきたのだ。
さすがに素手で受け止めるのはキツいので、横一線に振りかぶられたそれを屈んで避けると顔面目掛けて蹴りが飛んでくる。
それを転がって避け次の襲撃にすぐ身構えたが、距離を取ると次に標的になったのは樹だった。
「っ!!?」
薄暗く視界が悪いせいでやりづらい。
前方では3人の足音と鉄パイプが振られる音が聞こえてくる。
「やぁだ!アンタなんてもんを振り回すのよ!!」
「そこ??!」
ウタが本格的に参戦したようだ。
ツッコミを入れる余裕がある樹は心配せずとも元気そう。
二人の邪魔をしないように立ち回り、タイミングを見計らって転がってた廃材で鉄パイプを受け止めた。
お互いが衝撃を逃がしきれず獲物を手放した瞬間
「隙ありよっ!!」
ウタも強烈な回し蹴りが炸裂した。
とっさに左腕でガードしたのを見たが、あれは確実に骨にヒビが入ってるはずだ。
吹っ飛ばされて床を転がったところを3人で囲む。
「…ぐっ…ぅ…」
脳震盪を起こしたのか倒れたままうまく起き上がれずに苦戦してる。
「意識があってもまともに動けないでしょうから、このまま運んじゃいましょう」
「うぐっ……」
あぁー、疲れたわぁと呟きながら軽々と女を肩に担ぐと、行きましょうと先頭を歩いてく。
「言葉と行動が一致してないんだよなぁ」
紅を先に歩かせながら後ろをついてくる樹の言葉に内心激しく同意する。
黒服が用意した車に全員乗り込むといつの間にか来ていた鈴蘭がもう中にいた。
そうして一行はウタの店に戻っていった。
◇
ウタの店に全員無事に戻ってきたので裏口から先ほどまで使ってたVIPルームに入る。
黒服に担がれてきた女はソファーに寝かされ、4人で今後のことを話し合う。
『ハルトの生死を確認する云々の話をする前に、この人がハルトを知ってる保障なくね?』
「そうなのよ、そこなのよね。でも一般人でもなさそうだし話を聞くだけでもしないとね」
「私は即離脱したからよくわからないけど、その子の左腕見る限り壮絶だったんだなぁとは思ってる」
流石と言うべきか、服の上からだというのに怪我の状態をある程度把握して穏やかな解決策にしなよと笑ってる。
「うぅ……んぅ?」
話し声のせいか意識を取り戻し始めたらしく目をうっすら開けた女は腕の痛みで表情を歪めて、天井を見つめ不思議そうな声を出した。
「おっ、目覚ましたか?」
「っっっ!?!?」
「ぶっ…!!」
しぱしぱと目を瞬かせてた所に樹がひょっこり顔を覗き込むと、よほどビックリしたのか顔面に右ストレートを一発お見舞いして飛び起きた。
樹は顔を押さえ蹲り飛び起きた女は腕の痛みに蹲る。
「過激ねぇ」
ウタのその声を聞きハッとしながら部屋を見渡して初めて他にも人がいるということを把握したようだ。
スンっと無表情になり動きを止めた。暴れる様子はない。
『とりあえず、お互い詳しい状況を把握するために落ち着いて話し合いをしようと思うんだけど…どう?』
そう言ってやればコクンと頷きが一つ。
同意が得られたのでやっと先に進めそう。
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