第5話 「佐藤クリニック」


とりあえず2人を家の中に入れて自分は出かける準備をする。

一瞬だけ昨日の奴らに遭遇したらどうしようとは思いもしたが、人が居るところで何か仕掛けてくる事はないだろうと気にすることをやめた。

スウェットからラフな格好に着替え、リュックを手に取り準備は完了。


『で、今日の予定は?』


そう聞くや否や、真っ先に琴が口を開く。


「肝試しをしよ〜」

『私は別に構わないけど』

「無理怖い死ぬ」


ホワホワと楽しそうな琴とは真逆で顔面蒼白の美沙。

とりあえず肝試しは日が暮れないとできないので、日中は大型のモールに行くことにした。

目的地に着くとクレーンゲームに音ゲー、プリクラにメダル

途中に昼食を摂ってゲーセンに飽きたら次はカラオケといった感じでまわる。



PM18:45


肝試しをするには絶好の時間帯となり、目の前にはいかにもな病院。


「着いたぁ」

「怖い怖い怖い」


こんな調子で大丈夫なんだろうか。


懐中電灯を点けて玄関を照らす。


【佐藤クリニック】


どうやらここは個人病院だったらし、しかも小児科がメイン。

それを見てキラキラと目を輝かす琴と半泣きの美沙。

さて、いざ中へ入ろうとすれば、


『何故に君らは私の後ろに隠れるの』

「怖い」

「紅なら何があっても動じなさそうだからぁ」

『つまり私は君らの盾になれと?』

「「うん」」


即答する2人に呆れて何も言う気になれない。

仕方なく先頭を歩いて病院の中に入っていく。


鍵はかかっていなかったので簡単に玄関を開けて入る事ができた。


建物の中は薄暗く、何処からか隙間風が入ってきているからかだろうか…肌寒い。


[紅だ][紅だ][来たね]


楽しそうな声が耳に入る。

中に入ると正面にあるのは受付と待合室。


「ボロボロなのが余計に怖い」

「カルテとかも置きっぱなしなんだねぇ」


後ろの2人の会話を聞きながら、紅は目の前にある待合室の椅子をジッと見てた。


「紅?」

「ど…どど…どうしたの…?」


2人には見えていないのか…


目の前で座ってる女の人は不思議そうにこっちを見てる。

どうせ見えていないのなら、わざわざ言う必要もないだろうとそうその場を通り過ぎかけた時、


〔待って〕


呼び止められた。さらに、


「うそ…」

「〜〜〜っ!!?」


まさかの2人にも認識できたらしい。


〔お願い…助けて…〕


ハラハラと静かに涙を流しながら訴えてくる女の人に、2人は同情したのか話を聞いてあげようとか言い出した。

正直すごくめんどくさいのだが、仕方ないので話を聞くことに。



〔ユイと言います。この病院には気づいたら1人でいて…もう10年ほどでしょうか…〕


この時点で美沙達は顔面蒼白。


〔覚えている最後の日は、ここに熱を出した娘を連れてきてたんです。

 診察も問題無く終わって…でも、会計の最中に娘がいつの間にか居なくなっていたことに気づいたんです〕


「外に出たわけじゃなく?」


〔玄関に靴はありました。まして熱を出して初めてこの病院に連れてきたのに5歳の娘が1人で家に帰れるわけありません!

看護師さんに聞いても誰も知らないと…〕


一旦話が途切れた。

沈黙が数秒続いた時、受付内にあるカルテが一つ床に落ちた。


「「ッッッッッ!!?」」


足がすくんで動けなくなってる2人の代わりにカルテを取りに行く。


カルテを拾い上げて2人のもとに戻ってから全員でそれを覗き込んだ。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る