死刑囚

大滝隼

死刑囚

 「それでは判決を言い渡す。」

 僕は法廷の中央に座りながら、自身の過去に思いを巡らした。日々の仕事にストレスを感じ、どこかにその捌け口はないかと模索した挙げ句、何人もの人間を死に追いやってきた過去を。

 きっかけは単純であった。仕事で出会った気に入らない人物の命を、自分の手で簡単に奪えることに気付いた僕は、その日初めて人を「殺した」。

 人は自身の死が間近にあることを自覚した時、一番美しい顔をする。そのことに気付いたあの日から、僕は「死」という存在に魅了され、今日に至るまで数え切れない程の人数を死なせてきた。そして、それ程の大罪を犯したにも関わらず、今このときも次の標的を「殺す」ことの出来るその時を心待ちにしている。

 「被告人の行った行為は、非常に残虐的で―――」

 もちろん、この行為がいかに浅ましく非人道的であるかは自覚している。僕のストレスを解消するという理由だけで死にゆく人々のことを思えば、心が傷まないでもない。しかし、一度餌を与えられたネズミが死ぬまでボタンを押すことをやめないように、一度「殺人」の快感を覚えてしまった僕は、死ぬまでこの残虐で醜い行為に身を捧げるのだろう。

 そんなことを考えている内に、この長ったらしい文言も終わりに近づいてきた。期待に胸を躍らせた僕は、口早に残りの文章を消化して、被告人の顔を見ながら最後の一文を読み上げた。

 「以上の理由から、被告人を死刑に処する。」

 眼前に迫る死の恐怖に怯えた被告人の顔を見て、僕は静かに笑った。

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死刑囚 大滝隼 @Hayabusa_8823

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