14_化け物になった日
桐原……君はもうダーカーになってしまっていたのか。
鳶野の真上で、輪っか状のダーカーに
いくつもの輪っかの先に、
輪っかには、桐原のような
幾度も、ダーカーを
そのダーカーたちは、元々は人間で、桐原と同じようにダーカーにさせられたのかもしれない。
にも関わらず、私は、このダーカーを、彼女をこの手で殺すことに、
影隠師としては、未熟なのだろう。
まだ、彼女を人間に戻せるのではないか。
そういう甘い気持ちが、心の何処かで芽生えている。
鳶野の当惑する様子を見て久留は、ほくそ笑む。
「絶望したかい?彼女の生まれ変わった姿を見て」
鳶野は、ふつふつと湧き上がる怒りの感情を声にした。
「彼女の命をなんだと思ってるんだ」
そう叫ぶと、瞬時に影で複数の球体を作り出し、久留に向かって勢いよく飛ばした。
久留も、冷静に影で球体を作り出して、鳶野の飛ばしてきた球体にぶつける。
彼らの球体が衝突するとともに、凄まじい爆発音が辺りに
浮遊していた鳶野は、突風が吹き止むのを待たず足元に影でブロックを出現させ道を作りながら、久留のもとに駆け出す。
突き進む鳶野には、目の前にいる久留しか眼中に入っていない。湧き上がる怒りと憎しみの気持ちが鳶野の視野をぐっと狭くしていた。
ギュッと、何かが彼の身体を掴んだ。
何かが、身体を掴んだ。
動けない。
急に、何かに掴まれ鳶野は勢いを失う。
グギグギグギギギ。
痛ましい音が鳴り響くとともに、鳶野の身体に激痛が走る。あまりの痛みには、叫び声を上げる。
「うっうああああああ!!!」
骨が、骨が折られた。
彼が、痛みが走った箇所を見てみると、周りに浮かぶ輪っか状の物体から伸びた無数の手が彼の身体を掴んでいた。
腕、足、肩その他諸々。
身体のあらゆる部分が、握られ軋んだ音が歪な音程で鳴り響いている。
無数の手を振り解こうとするが、あまりに手が多すぎて身動きが全くとれない。
許せない。
絶対に、許せない。
彼女が何をした。
何も悪いことはしてない。
それなのに、どうして彼女はダーカーにさせられなくてはならなかったのだ。
全部、お前のせいだ。
彼は、久留を
「どうだい?変わり果てた彼女に、身体を握り潰された感想は?その表情、最高だね。悔しいか?私を殺したいか?残念ながら、君はどうすることもできない」
久留は、鳶野の様子を見て嘲り笑いながら、言った。
「彼女を……もとに……もっ……」
鳶野は、久留に向かって叫ぼうとした時だった。口の中に、手が入り込んできて、話すことすらできなくなった。
手が、どんどん口の中に入っていく。
内側から、口を広げられていく。
口元が引き裂かれそうだ。
「もっとはっきり言ってくれよ。聞こえないじゃないか。まあ、聞く気もないけどね。君も、彼女と同じようにダーカーにしてあげるよ」
久留は、手のひらの上で、影を
作り出したコアを手で握りしめると、鳶野の大きく空いた口の中に、むりやりコアを入れ込む。
「うっうぅううう」
彼の手とコアが私の食道を通って、胃の方に進んでいく。
吐き気がすごい。
身体が、必死に拒絶している。
そんなのはお構いなしに、久留は彼をダーカーにしようと強引にコアを胃の中に入れ込み離した。
鳶野は、胃の中で久留の作り出したコアが溶け込んでいくのを感じていた。
あつい。あつい。あつい。
身体が焼けるように熱くなっていく。
溶けていく。
身体が人間の形を失っていく。
身体だけじゃない。精神も、次第に崩壊していく。
意識が遠のく。
理性が失われ、まともな思考が徐々にできなくなっていく。
大切な人たちや、かけがえのない思い出の記憶が、頭から抜け落ちる。
私は、人間でなくなろうとしている。
薄れ行く意識の中、鳶野は、真上で浮遊している彼女の姿を見た。輪っか状の身体につぶらな瞳がついたその姿からは、人間だった頃の彼女の姿を想像することはできない。
姿だけでなく、感情や理性すらもなくなってしまっているように見えたが、ほんのわずかに彼女の意思が残っていた。
「とび……ぢゃ……ん」
鳶野は、たしかに聞いた。ダーカーになってもなお、自分の名前を読んでくれた彼女に、彼はなんとも言えない気持ちになった。
桐原……。悔しいよな。
ここで終わって、この男に思い通りになるなんて、そんなの絶対に納得できやしない。
私は、こいつの思い通りになってたまるものか。
たとえ、人間でなくなって、化け物になったとしても。
鳶野は目玉の姿をした異形の存在へと変貌する。身体も理性も失われたが、自らを、また桐原を化け物にした男を倒そうとする強い意思だけは残り続けた。
ダーカーへと変貌した彼の姿に久留は、かつてないほどの
「素晴らしいー!!!これぞ私の最高傑作だよ」
叫んだ直後、久留は、歓喜に満ちた表情を一変させる苦痛の表情を浮かべる。
「な、なんだ……突然、息ができ……」
息ができなくなる久留を悲しい目で、目玉のダーカーは見つめていた。
「……」
目玉のダーカーとなった鳶野は、影力を使用し、久留の周囲の酸素を消し去っていた。生命活動に必要な酸素を奪われた久留は、何もすることができない。
もう、何故、この男にこれほどの殺意を持っていたのか忘れてしまった。何も思い出せない。
ただ、やけに、いつの間にか空いてしまっていた心の穴がうずき、私を悲しい気持ちにさせる。
そして、目玉のダーカーは、暗闇の中を、自分が何者であるかも忘れたまま
ーー何十年、何百年。気の遠くなるような時間の末、再びある少年と出会った。それが黒瀬影人との出会いだった。
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