影の世界編

01_光結晶

 黒瀬は、地面に倒れた紅園に話しかけるが、反応はない。ただ目を閉じて、横たわっている。


 どうなってるんだ。彼女に一体、何が起こっていっていうんだ。


 突然の紅園の異変に、黒瀬が動揺していると、頭の中に声が響いた。


「彼女は、まだ生きている。だが、このままだとやばい。影力えいりょくを使い、出血を止めていたようだが、かなり無理をしていたようだ」


 黒瀬に話しかけてきたのは、精神世界で出会った人物だった。相変わらず姿は見えず、黒瀬の頭に直接話しかけていた。


「やっと、ダーカーを倒せたと思ったのに……。朱音を救う方法はないのか」


 黒瀬は、声の主に問いかける。

 

「あることはある。ダーカーを倒した跡を見てみろ」

 

 声の主が言うように、黒瀬はダーカーがいた場所を見てみると、神々こうごうしく輝いた結晶が浮いている。


「結晶?」


「あそこに見えるのは光結晶。ダーカー消滅時に、出てくるエネルギーのかたまりのようなものだ。光結晶を使え。その女性を救えるかもしれない」


「あの結晶を使えば、朱音を救うことができるかもしれないんだな。やろう。彼女の救う方法を教えてほしい」


 黒瀬は、宙に浮かぶ光結晶まで歩いて近づく。


「光結晶に手を伸ばせ。結晶の力がお前に宿るはずだ」


「分かった。手を伸ばせばいいんだね」


 黒瀬がさっそく光結晶に手を伸ばすと、結晶が粒子となって、彼の身体に流れ込む。結晶が流れ込んだことで、黒瀬の身体は、光に包まれて輝きを放っている。


 なんだ、この感覚は……。不思議な感覚だ。力が湧き上がってくる。


「女性の前に、手を伸ばせ。お前に宿った光を女性に流し込むイメージをしてみろ」


「こんな感じか」


 黒瀬は、紅園の方に手を伸ばし声の主が言うようにイメージする。すると、身体に宿っていた光が紅園に流れ込み、強烈な光を放つ。


「眩しい……」


「光を送り続けろ。一度、止めてしまえば、二度は使えない」


 次第に光は強まり、真っ白な世界が視界に広がる。眩しい光の中、黒瀬は、目を細め紅園の方に手を伸ばし、光を送り続ける。


 ダーカーをやっと倒せたんだ。彼女を死なせたりはしない。集中しろ。気を緩めるな。チャンスは、一度しかない。

 

 紅園に意識を集中した瞬間、黒瀬は何者かの気配を感じ、顔をおもむろに上げる。


 すると、漆黒の弾丸が横切り、黒瀬の頬をかすめる。


 な、なんだ。どこから飛んできた……。


「男一人、女一人。一人は殲滅せんめつ対象だな」


 黒瀬は、紅園に光を送りつつ、すかさず声がした方を見た。視線の先には、長細い拳銃を持つ、真っ黒な服を着た人物が微笑みを浮かべ立っていた。


「誰だ。お前は」


 

 


 


 


 

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