先生は殺人鬼

白悟那美 破捨多

第1話

その日、僕の目の前で笑った先生の笑顔は血で染まっていた。

本来なら血を浴びた人間の笑顔を見た人は、その異常さに恐怖を覚えるだろう。

だがそこに恐怖は無く、僕が感じたのは安心感と安らぎだった。

先生の姿は、まるで悪人からみんなを守ってくれる殺人鬼ヒーローのようだった。


成田なるた、今日から中学生ね!」

「うん、姉さんとまた一緒に登校出来るのは嬉しいよ」

「お姉ちゃんもとっても嬉しいわ!」

「友達できたらいいな」

「成田なら友達沢山できるよ!お姉ちゃんの弟なんだからさ」

「ありがとう姉さん」

「いいってことよー!」

「姉さんはいつも僕のことを褒めてくれるし慰めてくれるね。でも、僕ももう中学生になるからね。今まで通り姉さんに助けて貰ってばっかりじゃダメだと思うし、今日から姉さんには極力頼らないようにするよ」

「えぇー!!なんでー!?お姉ちゃんは成田に頼ってもらわないと死んじゃうと思うんだけど!!」

「そ、そんなレベルなの?」

「そんなレベルだよ!成田はお姉ちゃんが守り続けるって決めてるんだから頼って!」

「わ、分かったよ。本当に危ない時は姉さんに頼るよ」

「うん!任せて!」

「もう、姉さんには敵わないよ」

僕は姉さんの喜ぶ姿を見るのが好きだ。

姉さんは両親が死んだ後、ずっと1人で僕の面倒を見てくれていた。

僕のことを大切に育ててくれた姉さんを心配させたくはない。

僕は姉さんに今まで沢山助けてもらったし、これからは僕も姉さんを守れるようにならないといけない。そのためにはまず、姉さんから信頼を得ないといけない。

姉さんはかなり過保護な所があるから、僕が心配しなくても大丈夫だって事を証明する必要がある。

そのためには、今日の中学校初日で友達を作って姉さんに報告するのが1番だと思う。

「よし!そろそろ学校向かうか」

「うん、姉さん」

姉さんに言われて、2人で家を出て向かった。

僕の家は狭い路地裏にひっそりと建っている一軒家だ。学校へ行くにはこの狭く複雑な路地を毎日通らないといけない。

毎日この裏路地を通っていて、僕と姉さんはこの裏路地の複雑な道を知り尽くしている。

たまにこの路地で道に迷った人がいると、僕や姉さんは道を教えてあげている。

「中学校の道は言わなくても分かるわよね」

「うん、最短ルートを使えば5分で着くよ」

「成田はまだまだ甘いわね。中学校までの最短ルートは2分よ?」

「2分は僕には無理だよ。だって、姉さんと僕が言ってるルートは同じだけど、姉さんの場合はパルクール使うじゃん」

「えぇ、成田もパルクール出来るようになれば、すぐに中学校まで行けるわよ」

「一応パルクールは出来るけど、姉さんに追いつくことは出来ないよ」

「そんな事ないって、成田は自己肯定感が低いだけでやれば出来る子なのに勿体ないよ」

「そう言われてもなぁ」

「まあまあ、こんなこと言ってる間にもう学校に着いちゃったよ」

「最短ルートだからね」

「じゃあ、あとは教室に行くだけね。成田は1年2組よね。お姉ちゃんは3年だから階段でお別れだね。もし何かあった時はお姉ちゃんに任せてね。生徒会の権限でどうにでもするからさ」

「うん、でも僕のためだけに生徒会の権限を使うのは良くないから、ちゃんとした事に使ってね」

「ちぇ、成田が言うなら仕方ないな」

他愛もない話をして、僕と姉さんは階段で別れ、その後入学式が終わり教室で自己紹介をすることになった。

「それじゃあ、順番に自己紹介をしてもらおうと思います。まずは手本に先生が簡単に自己紹介をします」

「はーい」

「先生はこの1年2組の担任になる、広瀬ひろせ 奏多かなたと言います。好きな食べ物は米で、身長は176cmぐらいかな、そんで趣味はネットで人と話すことです。1年間みんなよろしく」

「よろしくお願いしまーす」

「質問いいですかー?」

「ん、なんだ?」

「先生は今彼女いるんですかー?」

広瀬先生の自己紹介が終わった途端に、僕の隣の席に座っている男子生徒が先生にそう聞いた。

「彼女はいないかな、今の所はいても構ってあげられないしね」

「えぇー!勿体ないっすね。先生イケメンだしスタイルもいいのに」

「はははっ、ありがとう。えーと、君は平井ひらいであってるかな?」

「うっす!平井であってます」

「OK、ならせっかくだ。平井から自己紹介してもらおうかな」

「はい!26番、平井ひらい 松詞まつし、好きな食い物はカレーと肉!趣味はスポーツだ!」

「元気があっていいな!先生もスポーツは好きだ。俺は体育担当だから楽しみにしといてくれよな」

「マジっすか!それは楽しみ!」

「あぁ、平井ありがとうな。それじゃあ後は出席番号順で自己紹介して貰うよ」

先生と平井くんの話が終わり、自己紹介が始まる。

「2番青山あおやま 涼音すずね、好きな食べ物はスイカ、趣味は将棋」

「15番、彩糧さいかて 鳳夏ほうかです。好きな食べ物は激辛系で趣味は放...ではなくて、お料理です」

順当に自己紹介が続いていき僕の番になる。

「16番、瀬々せせ 成田なるたです。好きな食べ物は魚で、趣味はパルクールです」

「へぇー、瀬々はパルクールが出来るのか、凄いじゃないか、もしかして姉の影響か?」

「はい!先生は姉さんをご存知なんですね」

「あぁ、だってお前の姉は俺が去年担任したし、この学校の生徒会長だからな」

「そうなんですね。姉がお世話になります」

「今年はお前だけどな!それにしても、姉と違って落ち着いてて礼儀正しいな」

「よく言われます」

「まぁ、姉のせいで少しは上級生からも絡まれるかもしれないけど、この学校の奴らはいい奴が多いから、慣れていくよ」

「はい、これからよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくな、じゃあ次のやつ」

僕の自己紹介は何とか上手く行き、その後、自己紹介をクラスの全員が終え、今日はそのまま帰ることとなった。

「ごめんねぇ!お姉ちゃんこれから、少しだけ生徒会の会議があるから先帰っててー!」

「うん、分かった」

姉さんが生徒会で会議があるため、1人で帰ることになり、僕は不安を感じながら帰るのだった。

「あぁ、姉さんがいないとある程度はどうにかなるけど、たまにとんでもない奴がいるんだよな」

ドンッ、僕は不安で考え事をしていたため、前にいる人に気づかずぶつかってしまった。

「ご、ごめんなさい!考え事してて」

「あ?ガキか?ぶつかってきてごめんなさいで済むと思ってるのか?」

「本当にごめんなさい、でもお金とかは持ってないのであげられる物とかはないんです」

「え?別にいいよ。だって、今から俺はお前を殺して、その内臓売って金に済んだから!」

そう言った男の手には既に何人か殺したであろう血が付いたナイフを持っていた。

「この人、やっぱり殺人鬼悪い人だ」

僕が不安だった理由、それは僕が昔から体質的に殺人鬼キラーと遭遇しやすく、さらに狙われやすいからである。

「死んで詫びろやクソガキがー!」

「えい!」

ガンッ!!

「痛ってー!!」

僕は咄嗟に、そばにあった古びた看板を男に投げ、それが男に当たった瞬間に全速力でその場から逃げるのだった。

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先生は殺人鬼 白悟那美 破捨多 @tukimiko

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