第2話 海を見に行く
『海を見に行く』
海、それは果てしなく
どこまでも広がる海原。
波打ち際に立てば
自らの内に秘めた想像力が
無限に広がらないでいられないのを
感じないではいられない。
その想像力を渚に寄せては
引いてゆく波がゆらゆらと揺らして、
やがて果てしなく
どこまでも広がる海原へと持ち去ってゆく。
持ち去られた想像力は
足元の砂に影だけを残して
果たしてどこまで行くのだろうか。
見上げれば海鳥が見える。
季節が冬になれば
カモメが海原を飛ぶ。
――カモメよ、
お前は溺れ死んだ水夫の魂が姿を変えたというが、
それは本当か?
それならば
お前が翼に背負うものは、
愛しい人へ伝えられなかった最後の伝言なのか?
問いかけに答えなく、
お前は去ってゆく。
ゆっくりと風に乗って、
果てしなくどこまでも広がる海原へ。
想像力はどこまで行くのだろう
教えておくれ、
カモメよ、カモメよ。
赤い灯台へと続く防波堤を歩く女がいる。
黒い髪を風に揺らし、
表情は暗く、
その眼には何も映っていない。
何がそこまで
彼女の心を追い込んだのか。
何があれば
そこまで悲しみという絶望に
打ちひしがれるのだろうか。
ハムレットのオフィーリアの悲しみは
戯曲だけの演出だけではなく、
この世界に生きる全ての女の為のものなのか、
そう、思わせないではいられないほど
女の悲嘆にくれた相貌は 見る者に訴えかけて来る。
風が吹いて
不意に女が振り返る。
振り返れば風に流されたカモメが一羽、
女の目を横切ってゆく。
それは綺麗な放物線を描き、
その翼の先に何かを切り取って
海原へと消えて行った。
女はそこに立ち止まり、
飛び去ってゆくカモメの翼を見つめている。
女よ、
いつまで君はそこに佇んでいるつもりか。
カモメの翼が残した言葉が
海原を吹く風に乗って聞こえて来るようだ。
それはゆっくりと風に乗って果てしなく、
どこまでも広がる海原へ。
想像力はどこまで行くのだろう。
海を見に行く。
明日もまたひとりで。
これから先、どのような激動の時代になっても、
僕は、
私は、
海を見に行く。
果てしなくどこまでも広がる海原がそこにある限り。
そう思った時、
カモメが僕の手に握られた手紙をさらっていった。
そして、
果てなしなく広がる海原の向こうへと
飛び去って行った。
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