第6話 初めてあなたと出会った日のこと
お茶会を終えるとセヴェリ様が迎えに来てくれた。
私の姿を見るなりにこにこと微笑んでくれる彼を見ていると、どうしても先ほどの話を思い出して困惑してしまう。
セヴェリ様はもしかすると、私の好みに合わせてわざとあの性格を演じていたのかもしれない。
そう考えてしまうのは、初めて出会った時の彼が無口でも不愛想でもなかったのを覚えているから。
――私たちが初めて出会ったのは、ペリウィンクル王立魔法学園に入学して間もない頃だった。
その日は冷たい霧雨が降っていたのを、覚えている。
成り行きで学級委員長をしていた私は、放課後に居残りして先生に頼まれた仕事をしていた。
誰も居ない教室で一人、作業をしていたのだ。
すると急に教室の扉が開き、セヴェリ様が入ってきた。
「あ、あの……?」
「……」
覚束ない足で入ってくるなり、扉の近くにある席に腰かけて机に突っ伏してしまったのだ。
さらさらした銀色の髪に、整った顔立ちを見て、すぐにセヴェリ様だとわかった。
セヴェリ様は入学前から貴族令嬢の間で話題になっていたから、私が一方的に知っていたのだ。
立ち振る舞いも勉強も完璧な、見目麗しい貴公子。
そう噂に聞いていたセヴェリ様が目の前に現れて、少なからず動揺した。
「エルヴァスティさん、もしかして……体調が悪いのですか?」
「……いや、少し眠いだけです」
「たぶん、かなり体調が悪いですよね? だってここ、自分の教室と勘違いして入ってきましたでしょう? それに、先程から足元が心もとないですし……」
「?!」
よほど驚いたのか、勢いよく体を起こしたセヴェリ様は、目を真ん丸にしている。
ああ、なんだ。この人も私たちと同じ人間なんだ。
そのような感想を抱いて、少し親しみを覚えた。
「医務室へ行った方がいいですよ」
「いえ、ただ眠いだけですから」
そう言われても、見るからに元気が無さそうで、強がっているのがありありと伝わってくる。
だから、どうにかしなきゃいけないと、思ってしまった。
「少しお待ちください。ここから動かないでくださいね?」
医務室で氷嚢と毛布を借り、食堂で温かなホットレモンを作ってもらい、教室に持って帰ったのだ。
「お待たせしました! 私がここに居る間は、大人しく看病されてください!」
「え?!」
面食らっているセヴェリ様の頭に氷嚢を乗せて、毛布を掛ける。
最後にホットレモンを手渡すと、観念したのか素直に受け取ってくれた。
「……君、お人好しと言われたこと、ありませんか?」
ぼそりと呟いた声に嫌味っぽさはなく、まるで私を気遣ってくれているような、優しい声だった。
「いいえ? お姉さんらしいねとはよく言われますけど」
「妹か弟がいるのですか?」
「どちらもいますよ」
「……君のような家族がいるなら、幸せでしょうね」
それから私たちは静かな教室に二人きりでいた。
窓の外は鈍色の空に包まれており、ただただ穏やかな時間だった。
やがて仕事を終えた私が職員室にいる先生に報告しに行っている間に、セヴェリ様は帰ってしまったらしい。
教室に戻った時には居なくなってしまっていた。
*:;;;:*゚。+☆+。゚+*:;;;:*
以降はこれといった接点がなく、セヴェリ様と会うことはなかった。
それなのに、初めての出会いから半年たったある日、急にセヴェリ様に呼び出されたのだ。
「クレーモラさん! あのセヴェリ様があなたに話をしたいと言っているわよ?!」
「ええっ?!」
彼に頼まれて呼びに来た同級生が、好奇心に満ちた目で見つめてくる。
突然現れた氷の貴公子と私との関係に、同級生たちは興味津々だ。
みんなの視線を痛いほど受けつつ教室を出て――廊下で待っていたセヴェリ様に庭園へと連れ出された。
久しぶりに顔を合わせたセヴェリ様はすっかり「誰にも微笑まない氷の貴公子」になっていて。
「――もし婚約者がいないのなら、私と結婚してくれないか?」
にこりとも微笑まず、ぶっきらぼうに、そう告げたのだった。
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