第9話 ありえない決断
どれくらい経っただろうか。
私と勇作が頭を下げていると、しばらくしてお父様が重くなった口を開いた。
「一時の気の迷いでは・・・・・・ないのだな?」
お父様の口調は怒りが少し含まれていたけれど、許容しようとして頑張ってくれているように聞こえた。
「「はいっ」」
私たちは声を合わせて返事をした。
「よかろうっ!!」
私たちは頭を上げると、お父様は腕を組んで目を瞑り、身体を明後日の方に向け、お母様は微笑んでおり、二人とも涙を流しくれていた。
「よろしいの・・・ですか? 東城さん」
「お父様、だろっ!! 勇作」
お父様も大分お酒が回っているせいなのか、子どもっぽくそんなことを言い出した。お母様はふふっと笑ったけれど、私も勇作もそれを笑う気にはなれなかった。
「お父様・・・・・・こんなワガママなことを言った張本人の僕が言うのも恐れ多いのですが、お父様の立場を危うくしてしまうのに本当によろしいのですか」
勇作の言うことはもっともだ。そんなアホな判断をする人は日本に置いてお父様くらいしかいないんじゃないかと私は思う。私だけならいいけれど、私を即許してしまえばお父様とお母様だって御先祖様に合わせる顔が無くなってしまう。とても正気の沙汰じゃないし、お酒のせいなのか、お父様たちこそ一時の気の迷いじゃないかと思った。
「今日の梅子は、優作君に会うまでどんなに盛り上げようとしても顔から影が消えなかった。いいや、今日だけじゃない。ある日からずーっと薄っすらと影を抱える子になってしまった。それがどうだ、こんなにもいい顔をしている。親として、いいや、俺たちとして、こんなに嬉しいことはない。だから、親馬鹿だと言われても、俺とこいつは梅子が幸せなら問題ない」
お父様がお母様の肩を抱くと、お母様も素敵な笑顔で頷く。
「お父様・・・っ」
私は目から涙が溢れてしまい、手で顔を抑えた。勇作は「ありがとうございます」と言って一礼し、私の背中を擦ってくれた。
「ほらほら、幸せになるんでしょ? ほら、笑顔、笑顔」
そう言って、お母様も私の頭を撫でてくれたので、私はお母様に抱き着いた。いつものお母様の匂いがして、私の気持ちは落ち着いていった。
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