エスターと運命の1週間 ― Who’s that girl? - His seven crucial days in Los Angels ―
■#01 Day 1 Monday Morning ――1日目。月曜の朝――
エスターと運命の1週間 ― Who’s that girl? - His seven crucial days in Los Angels ―
スイートミモザブックス
■#01 Day 1 Monday Morning ――1日目。月曜の朝――
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ハート家6人きょうだいの末っ子、三男坊のエスターは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に在学中。
カリフォルニアらしい晴天のなか、大学2年目を迎える。
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摂氏29度。カラッとした晴天。
これぞロサンゼルス。
UCLA2年目のスタートにふさわしい好天だ。
でも20年の人生でこの天気を謳歌した期間は、3分の1にも満たないんだよなあ――。
「エスター!」
クレアが肩までのブルネットをはねさせて駆けてきた。
どん、という小さな衝撃とディオールの香りともに、小麦色の腕が左腕に巻きつく。
「ねえ、今日のパーティ、出るわよね?」
これは質問じゃない、確認だ。
今日は大学主催のウェルカムパーティがある。パーティを開くにはなんとも不向きな月曜日だけど、学年の始まりの顔合わせ的な、親睦会的な意味合いがあるのだろう。
ちなみにぼくとクレアが招待を受けているのは、“最上”レベルのパーティだ。
大学当局のおえら方、主任教授、注目株の新任教授や研究者、前年度の成績優秀者……とにかく大学の利益になりそうな面々が呼ばれている。
「まあね、顔は出すよ」
「あなた、経営学科の首席だったんでしょ? ハート家の御曹司っていうだけでじゅうぶん顔パスだろうけど」
ふふっとクレアは笑った。そういう彼女は政治学科の首席だったはずだ。
女性大統領を目指す!と豪語する彼女は、いつも自信に満ちている。
父親はロスに強固な地盤を持つ政治家だ。
クレアとは初等科から高等科まで一貫教育のプライベートスクール〈トリニティ・アカデミー〉に通った仲だけど、むかしから社交的で、華やかで、ずっと女王様的な存在だった。
「いったん帰って着替えるわよね? 迎えに来て」
パーティは夕方6時にスタートし、そのあとはうちの〈ザ・ハート〉のバンケットルームに場所を移して2次会もある。
ドレスアップは必至だ。
パーティで男が女の子をエスコートするのは、当然のことではあるんだけど……。
「マークは? あいつも行くんだろ?」
マーク・ナイアードも同じプライベートスクール出身の同級生。金髪碧眼のナイスガイで、アメフトをやってて、クォーターバックの花形だ。ちなみにぼくは、黒髪にグリーン・アイズ。
で、そのマークは……クレアのことが好きだ。
「もちろん行くわよ。それできのう、ラインで迎えに行くよっていわれたんだけど断っちゃった。だから迎えに来て、あなたのポルシェで」
クレアの腕にぐっと力がこもった。
うまくいかないもんだな……マークはいいやつなのに。男のぼくが見てもほれぼれするのに。ぼくが女だったら、喜んでマークに迎えに来てもらうのに。
「――わかったよ。じゃあ、5時くらいでいい?」
「オッケー、ありがと!」
クレアはまたふふっと笑ってエスターを見上げた。
エスター。やさしいエスター。すてき、大好き!
ちょっとエキゾチックでノーブルな横顔。そう、まるでギリシア彫刻のダビデ像みたい。
マークみたいなタフガイとちがって、モデルみたいにすらっとしてて、半袖のリネンシャツから伸びた小麦色の腕にはものすごくきれいな筋肉がついていて。ヴィンテージジーンズをはいた脚も、腰も、セクシーとしかいいようがない。
ずっと好きだった。初等科の入学セレモニーで見かけて、もう好きになってた。
だって、彼は王子様みたい――ううん、天使みたいだったもの。
肌は白くてつるつる、くちびるはバラ色、エメラルドがはまってるのかと思うようなキラキラした瞳。エスターが学校に来たら、いつも女の子たちがきゃあきゃあ騒いでた。
でも、いちばん近くにいたのはこのわたし。
だれも近づかせなかった。たまにデートまでこぎつける子もいたけど(とくに上級生!)、当日、現場にあらわれてじゃましてやった。
でも大学に入ったら、規模は大きいし、もっとあつかましい女の子がたくさんいて――ほんと、ムカつく!――最初の1年だけでも、なにかあったかもしれないって思うあやしい子が何人もいた。
エスターはなにも教えてくれない。
その子たちとは長続きもしてないみたいだけど。
わたしとは、いまだになにもない……。
ううん、そんなこと関係ないわ。
今年こそエスターの“彼女”になってみせる。
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