第6話 陸上部の先輩の個性が凄い!?

「犬倉さんがどうしてここに!?」


 現在の出来事に驚きを隠せない。

 まさかこんなところで出会うとは思っていなかった。


「中学の頃から陸上部だったので高校でもと思って……」


「ってことはやっぱり陸上部に入るってこと?」


「そうです。入るつもりですよ。学校のみなさんは陸上には興味ないみたいで私だけみたいですけど……」


「そ、そうなのか」


「……はい。だから、誠君がいてくれて本当に嬉しいんですよ!」


 ギュッと胸が苦しくなる。

 犬倉さんの満面の笑みを見たからだ。

 破壊力が強すぎるよ、ホント。


「時間も時間ですし、入りましょう。きっとそろそろ中でミーティングが始まると思いますので」


「……それもそうだな。入るとするか」


 ドアをすっと開けて、教室に入る。

 さっきと違ってあまり緊張しなかった。


 中には数人いて、席に座っている人は何人か見たことがある顔だった。

 俺と同じ新入生だったからだろう。

 そして前にいる人たちが……

 

「お、新入部員か。今年はいいね~また2人獲得! しかも1人は女子か。可愛いしいいな~」


「部長その獲得って言い方止めてください。相手2人に聞こえてますし迷惑ですよ。あとそのおじさんみたいな言い方もキモいです……」


「ははは、別にいいじゃないか。それくらい。副部長の君こそ迷惑なんじゃないのか!?」


「ダメだなこりゃ……」


 部長と呼ばれている女の先輩と副部長と呼ばれている男の先輩が口論していた。

 

 もしかして俺って来る場所間違えたか?

 ここって陸上部だよな?


「くす……面白いですねあの先輩たち」


「全然面白くないから。なにこの人たち。本当に先輩!?」


「し、失礼な! これでも私は陸上全国大会出場者だぞ。あまり舐めてもらっては困る!」


「やべ、聞こえてた」


「やべ、聞こえてたじゃないんだよ。私これでも先輩だよね。そんな口答えしていいのかな!」


 俺たちの会話に部長が突っ込んでくる。

 結構小さめで話したつもりだったんだけどな、聞こえてたらしい。

 それを見て、犬倉さんがくすっと笑う。


 どんだけ耳がいいんだよ。地獄耳かよ!?

 しかもちゃっかり全国大会出場者とか言っているし、意外と凄い!


「部長……こんだけの人を待たせているのでさっさと始めましょうよ」


「それもそうだな……あとで君には色々と言いたいことがあるから覚悟しとけよ!」


「……」


 本気で睨まれる。

 可愛い顔をしている分凄く怖い……


「……では今年度の陸上部の説明を始める。この私こそ陸上部の部長である、3年の白神志保しらかみしほだ。部長様と呼びたまえ!」


「えっと……同じく3年の副部長である友崎真也ともざきしんやです。部長がこんな感じの変な人なんですけどこれから頑張っていくのでよろしくお願いします」


「ちょっと副部長君。こんな感じの人って酷くない!?」


「話がややこしくなるので部長は黙っててください。私がするので」


「酷いよ……私部長なのに……」


「あはは……」


 苦笑いする。


 この部長、癖が強すぎる人だな……


「初めに言っておきますが、この陸上部はパンフレットにも書いてあると思いますが、走り専門の陸上です。間違い無いですね?」


 うんうんと頷く。


「では説明するにあたって陸上部の年間の予定表みたいなのを言いたいと思います」


 部長に変わって副部長が説明を始めた。

 ちなみに部長はその場で体育座りをして顔を伏している。 


「4月5月6月7月は普通に練習です。短距離、中距離、長距離で分かれて、練習を行います。短距離は僕。中距離、長距離は部長が監督するつもりです。朝練もあり、結構ビシバシ行く予定なのでそんな感じで思っててください。そして夏休みには……」


「夏休みにはもちろん合宿だ!!」


「部長……」


 部長がニコニコとした顔で話しに割り込んでくる。

 いつの間に立ち上がったんだよ!


 そのまま話し続けた。


「合宿は、毎年恒例の由比ヶ浜で行う! めちゃめちゃ景色が綺麗で遊べるからね。それに海で泳ぐのも楽しいからな……」


「それ全然陸上に関係ないじゃん。陸上の要素なくね!?」


 俺が言う。


「まあ、合宿といっても夏休みだからな。遊ぶんだよ。だけど、練習はきちんとやるよ。普通のやつよりも5倍は辛いと思ってた方がいいかな」


 そ、そんなに……


 となりを見ると犬倉さんも少し困った顔をしている。

 こんな顔もするんだな……


「そのあと9月には大会がある。ここで全国に出れるか決まるんだ。練習の大会なら結構な頻度であるけど、ここは本番。君たちにはその権利が3回あって私たちは1回。これに高校3年のすべてがかかっているんだ」


 真剣なまなざしだった。

 ふざけているとは言え、ちゃんと陸上に取り組んでいるのがわかる。

 

「……って感じかな。9月のあとは同じく練習とかするくらい。別に大きな出来事はないよ。私たちはその時、受験のために引退しているし」


「らしいです。これで説明は終わりです。今からこの部活に入るかどうかの紙を配るので家に帰ってから書いてください。それで担任の先生に出しておいてください。部活着もついでに買いたい人は紙に書いてあるのでよく読んでおいてください」


 副部長が紙を配り始める。

 陸上部に所属しますに丸を書けば入れるらしい。


「じゃあ私たちはこの辺で退散させてもらうよ。これから練習があるしバイバイ!」

 

 一瞬にして走り去った。

 凄く早かった。

 俺になにか言うとか言ってたけどなにも結局なにも言わないのかよ……


「では」


 それに続いて副部長もいなくなる。

 

「俺たちも行くか」


「そうですね。帰るとしましょう」


 3年A組の教室を出る。


「この部活、入るつもりですか?」


「色々とあれだったけど……俺はまあ入るつもりかな。面白そうだし。なにより走ってみたいし」


「私もです! 合宿が由比ヶ浜とか少しわくわくしますし! 中学の頃は合宿とかなかったので。小さな部活でしたし」


「そっち!?」


「ですです」


 確かに俺も合宿は楽しみだ。

 海で合宿とか聞いたことないし…… 

 それにどんな感じか気になる。あの部長も含めてだ。


「……じゃあ入るか、陸上部」


「入りましょう、陸上部に!」


 俺たちは陸上部に入ることを決めた。

 

 なんか学校生活が充実してきた気がする!

 これが青春ってやつなのだろうか……

 あとは恋愛さえよければなんだけど……



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