第4話 一緒に帰ろう、そうしよう

「まあ、結局凄いって言っても、俺自身が凄いんじゃないわけだしな。あんまり調子乗らない方がいいよな……」


「ん? 凄いってなんのことです?」


 声が聞こえていたのか話しかけて来る。


「……いやなんでもない。気にしなくていいよ」


「……よくわかりませんが気にしなくていいというならわかりました」


「おう」


 はぁ……全くだ。

 一体どうしたらいいというんだ。


「ってことで、これで全員の自己紹介は終わりました。皆さんと仲良くなれそうでよかったです!」


 そうこうしているうちに自己紹介が終わったらしい。

 他の人は楽しそうに騒いでいるようだった。


「犬倉さんってめちゃくちゃ可愛いよね」


「名前が犬倉って初めて聞いたよ。凄い名前だよね」


「彼氏とかいるの?」


「いえ……それは……」


 犬倉さんも男女さまざまな人と話している。

 多すぎて答えられていないみたいだ。

 俺はその輪には入らず陰でこそこそと見ている。


 だってめちゃくちゃ印象が悪かったし。ここに入ったらまた言われるのかなって思うと泣きたくなるし。

 ……マジで終わってるレベルで。

 後は普通に話すのが苦手っていうこともあるけど。


 い、いやでも悲観的になるのはまだ早い。

 全員が俺のことをダメだと思ってないかもしれない。他の人は違うかもしれないからな。

 ……試してみる価値はありそうだ。

 まずは隣の人から……


「こ、こんにちは。お、お元気ですか?」


「……」


 話しかけたのは女の子だった。

 ピンク色の短髪につぶらな赤いひとみ。

 見るからに優しそうな人だった。


 これなら期待できる! そう思った。


「……」


 が、話しかけるとすぐにそっぽを向かれた。 

 そのまま無視し続けている。


 なにこれ。話す前から嫌われてんの、俺!?

 しかも男子だけじゃなくて女子にまで嫌われてんのかよ!?


「最悪だ……もう死のうかな……」


 辛くなって、机に伏した。

 するとそこで。


「おい、お前。すごーく、変な奴だな。話しかけたりいきなり机で寝たり」


 前の席にいた男に話しかけられる。


「……まあな。それよりなんで俺なんかに話しかけるんだよ。みんな俺のこと避けたりしてるのに」


「面白そうだなって思ったからだけど。なにかおかしいか?」


「いや、おかしくない。全然おかしくない。むしろいい奴過ぎる……」

 

 キタコレ! ホントにキタコレ!!

 今度こそ友達を作ってやるぜ。


「お前の名前なんていうんだ?」


「自己紹介聞いてなかったのかよ」


「あはは……すまん」


「ホント面白い奴だな。自分の自己紹介結構滑ってたし……流石にあれは笑ったわ」


「うっせ!」


「まあいいや。俺は野村宏樹のむらひろき。どうだ、案外簡単な名前だろ? お前は確か……」


「橋本誠だ。よろしく」


「そうそう橋本ね。俺がのでお前がはで始めるから結構近いんだよな。明日から多分だけど近くの席になるはずだし。こっちこそよろしくな」


 よし、よろしくってことは友達ってことだよな。

 出来たんだよな!

 ……それならなにか話しかけないと。適当に……


「ていうかなんで今日は自由席なんだ?」


「そうか、橋本は遅れて来てたから知らないのか。なんか今日は学校に来て初めてだし仲良くなれるような席でいいってことで自由席にしたらしい。明日からは名前順みたいだぞ」


「なるほど……」


 じゃあ明日から犬倉さんと席が遠くなるってことか。

 少し寂しくなるな。


「で、俺も聞きたいんだけどよ犬倉さんとはどんな関係なんだよ。一緒に遅れてきてたし。なにかあるんだろ?」


 犬倉さんを指さす。

 他の人と話しているようで気づいていないみたいだ。


 俺は気づかれないように小声で野村に言う。


「いや別に特別なことはないさ。ちょっとだけ……色々あっただけで……」


「ふーんなんだ。てっきり俺は仲良さそうだったし付き合ってると思ってたんだけどな。違うのかよ」


「つ、付き合うとか全然ないから! 違うから!!」


「なんでそこまで興奮してんだよ。まさか……好きなのか?」


「ちょ、うるさい!」


「なにその反応。面白すぎ!!」


 あははははと笑い出す。

 笑い方が豪快でうるさい。


「くそ……なら野村こそ、好きなやつとかいるのかよ。人に聞いておいて、自分は言わないとかないよな?」


 わざとらしく聞いてみる。


「そりゃいるさ。ていうか、彼女だし当たり前だろ」


「ちょっと待て。彼女いるの!?」


「うん。ほらあそこにいるやつ。篠原美優しのはらみゆって言うんだ」


 少し前で話している子にゆっくり手を振った。

 黒髪の子だった。

 それに気づいたその子が手を振り返した。


「ほらな。中学からの同級生なんだけど、そこから付き合って、この学校にどっちとも受かったんだ。まあ運が良かった」


「す、凄い……」


 一緒の学校に来るとか。 

 しかも一応ここ、進学校だぞ。

 どれだけ努力したらそうなるんだ。

 俺なんてギリギリで受かったのに……


「じゃあ今日はこの辺で解散しようかな。明日からも授業なので頑張ってくださいね」


「もう帰るらしいよ。ってことで明日からもよろしくな」


「ああ」


 これって友達ができたってことでいいのかな。


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 外に向かう。

 野村と帰ろうかと思ったんだが、篠原さんと帰るらしくやめておいた。

 邪魔しちゃ悪いしな。 

 空気は読める。

 

「誠君。待ってました、一緒に帰りましょう!」


「あれ、犬倉さん。どうしてここに」


 校門のまえで犬倉さんが見えた。

 

「帰るためですよ! 方向も一緒だし」


「でもクラスで人気だったし他の人とかにも誘われたりしてたんじゃ……」


「もちろん全部断りましたよ。仕方ないですからね」


「断ったの!?」


 せっかく仲良くなれるチャンスだって言うのに。 

 どうしてそこまで。


「誠君ともっと話したいことがありましたし。仲良くなるなら学校でもいいですしね! 少しだけ可哀想ですが……まあよしとしましょう」


 にっこりと笑う。


「なんでそんな当たり前みたいに言ってるんだ……」


「当然です!」


「なんで偉そう……」


 手を腰に当てて、胸を張っていた。


「というわけで帰るとしましょうか。時間も時間ですし」


「……わかったよ」


「はい。では帰りましょう!」


 俺のためにそこまでするなんて……

 ありがたい。

 

 最初はダメダメな初日だと思ったけど、友達も一人できて、一緒に帰ってくれる女の子もできたんだ。

 高校デビューは失敗だけどまあよしとしようかな。


 明日からの学校が楽しみになってきた。


「どうかしましたか?」


「いや、ちょっと嬉しいなって思っただけ」


「え……嬉しいってもしかして……」


「ん? どした?」


「いえ、べ、別に!?」


 そっぽをふく。


「あ、あれ……犬倉さん……」


「本当になんでもありません! 気にしないでください」


「そ、そう……ならいいけど」


 そんな感じで雑談をしながら帰っていった。

 とても有意義な時間だった。

 

 こうして学校生活初日が終了したのだった。

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