抱擁

頭をそっと撫でる貴方の手

耳に沿って流れる貴方の手

何もしていないのに

何もされていないのに

貴方が触れるだけで呼吸が変わる

ブラウスのボタンに触れる指

私の心を待つように

無言でボタンに触れただけ

いい?

そんな風に言われた気がした

うん

そう言うかわりに目を閉じた

ブラウスが少し開かれて

胸元の空気が入れ替わる

突然になにかに引き戻された

ごめんなさい

怖さと恥ずかしさで背を向けた

怖い?

耳元が暖かい息で包まれる

小さく丸まりながらうなずいた

大丈夫、こっちをむいて

大きな胸に抱き寄せられた

振り返ればいつもの彼の匂い

いつもの彼の香り

固くなった体から力が抜ける

首筋から背中をそっと走る手に

導かれて貴方の体にしがみついた

怖かったね、ごめんね

包まれて逃げ場を失った私の体

あの大きくてゴツゴツした手なのに

羽毛で触れられているみたい

どうしてこんなにやさしいの

どうしてこんなにやわらかいの

恥ずかしいのに嬉しいの

大丈夫だよっていうあなたの声が

頭の上から聞こえてきた

もう平気

あなたとなら大丈夫

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