宿り木

@keke7921

美鈴編1

美しい鈴の音色。


 普段は気づけないその響きに心を傾けると、いつのまにか夢中になり、その響きから離れられなくなる。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「お疲れさまでした!」


 今日もバド部の練習が終わり、急いで片付けてチャリで家に帰る。


 今日は親父との練習日。厳しいことばかり言う父だが、一緒に練習している時はなんだか嬉しそうだ。


「優季、お前才能ないなー。」


 毎回ディスってくる親父。いつかこの発言が間違いだといつか認めさせてやる。


・・・


「あーくそ。上手くなりてー。」


「なに?またお父さんに負けたの?」


…はず。綾香に独り言を聞かれていた。綾香は高校1年にしてテニス部のエース。幼稚園からの幼なじみ。同じクラス。


「お前はいいよな。最初から試合出れて。」


「ばか。試合出てるやつは、試合出てるやつなりの苦労があるのよ。」


「試合出してもらえるだけよくないか?」


「そんな簡単じゃないわよ。ほら、そんなのいいから勉強教えてよ。」


 俺は実は学年上位の成績。綾香には中学校から勉強を教えている。こんな軽口を叩く関係だが、去年俺は綾香に告白してフラれている。


 理由はシンプル。綾香は塩顔好きだ。俺は残念ながら少し濃いめのしょうゆ顔。顔が好みじゃないとのこと。


 整形すれば付き合っていいと言いきるくらいはっきりした性格の綾香。ま、はっきりしているからこそ今も話せるのだが。


「んー三角比は覚えるしかないぞ。」


「覚え方が分からないから優季に聞いてるんじゃない。」


「だから覚えるしかないんだって」


「いいから文句言わず教えなさい!」


「あ、もしかして三角比?わたしも教えてー」


 隣のクラスの美鈴も話しに加わってきた。綾香と同じテニス部。甘ったるい声が特徴だ。


 正直あまり得意じゃない。男受けを狙っている感じが苦手だ。


 「だから、覚えるだけ!」


 はー、疲れる。


・・・


季節は10月。新人戦直前だ。試合にとにかく出たい。どうやったら上手くなれるのか。何かしらヒントはないのか。今日ももやもやを抱えながら学校を出た。


 季節はずれの冷たい風が吹いていた。 


「…そういえば今月号のバドマガ買うの忘れたな…」


 ふと立ち寄った本屋。 


 そこにはうつむきながら1人ぽつんと立っている彼女がいた。

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