そうだ!ダンジョン攻略する英雄(笑)たちに通行料をかけてやろう!

ゆめうめいろ

そうだ!ダンジョン攻略する英雄(笑)たちに通行料をかけてやろう!

「おい、ビールくれや。」


 何度来たのかもわからない【英雄】と呼ばれる者たちがそういった。

 そして俺は無言で【英雄】の席にビールを置いた。


 「おいおい、感謝の言葉もなしか?俺たちが来なければこんな店すぐつぶれんだから感謝するくらい当然だろ?」


 うっせえよ、お前らがそんな事やってっから新しい客が寄り付かないんだろうが。

 はぁ、何でこんな事になったかな?



 【英雄】

 それは、日々民衆の恐怖心の種となる【ダンジョン】を攻略する者たちのことを指す言葉だ。

 何で、なんにもやっていない奴らが【英雄】なんて呼ばれているのかは知らないがいつからかそう呼ばれていた。


 【ダンジョン】は突如として首都イルアドの森に現れた。

 高さは約300m、外から見る限りでは20層ほどある塔だ。

 なぜ出来たのかも、誰が作ったのかもわかっていない。

 【ダンジョン】には凶暴な魔物が大量にいて、春にはその魔物が産んだ幼体たちが大量に人里に現れて人を襲うため、その前に魔物を狩り尽くすための英雄がいる。


 幼体と言っても一体で人を簡単に殺せるくらいには強い。

 そのため英雄になるのにも取るのが難しい免許がいるのだが、免許さえ取ってしまえば死ぬまで毎月お金が貰える。

 国としてもいち早くダンジョンを攻略してもらいたいのだろう。

 しかしそのせいで、毎月最低限の成果さえ出してその後は欲望全開の【英雄】たちが増えてしまったのだ。

 しかも、免許を取るのに学力などはいらないから、殆どの輩が横暴で馬鹿な奴らだ。


 そんな奴らでも、ダンジョンを攻略してもらわなきゃこちらとしても安心できないから無碍に扱うことはできない。


 

 そして、【ダンジョン】が出来てから2年。

 未だこの体制は変わっておらず【英雄】至上主義は続いていた。


 あーーーーーーーーーーーー!まじで○ね!○えろ!


 ―――とりみだしてしまいすいませんでした。

 でも、さすがにこれは普段温厚(?)な俺も堪忍袋の緒が切れた!


 28歳、童貞、独身の俺でも!


 なんでせっかくなけなしのお金を叩いて立てた店をあんな奴らのせいで新規客が怯えて入ってこれないようにされてんだよ。

 ほんっとに意味わからん。

 もう俺も三十路だよ?三十路。

 そろそろ結婚もしたいのに……はぁ。


 「おーい、ビールおかわり。」


 また、顔まっかにしたおっさんかよ。

 てかお前、もうそれ10杯目だぞ?死にてーの?

 死にたいのならご自由にどうぞ。


 そして俺はまた無言で【理由】のテーブルにビールを置いた。


 「おいおい。また(以下略)」


 まじうぜぇ。

 時計を見ると夜中の10時。

 本当ならこれからが稼ぎ時なんだけど……もう閉めるか。


 「もう今日は店を閉めます。帰って下さい?」

 「あ?何でだよ?飲ませろや。」

 「あ?もしかして俺の店を気に入ってくれたんですか?ありがとうございます。」

 「……うっせぇよ。」


 そういうと【英雄】様は帰ってくれた。

 いつもこの繰り返しだよ。

 あと今日は……5人?

 はぁ、もうやだ。

 ストレスで死にそう。







 んーーん?

 あぁ、朝か。

 昨日は疲れた。

 今日は、定休日だし家でゆっくりしよ。


 ゆっくり=寝る


 てことでおやすみなさい。


 


 


 

 (何されるのが嫌なのか。金を使われるのはどうでもいい。手間がかかることが嫌い。手間がかかる?手間がかかること。手続き?ダンジョン行かないと金を貰えない。ダンジョン。手続き……?―――!)







 おはようございます!

 あーまじで俺天才か?

 わたくし、ダンジョンに通行料制度作れば【英雄】への手間もかかるし、お金も稼ぎにくくなるってことに気づきました!

 で、俺と同じような境遇の経営者もいるはずだからそいつら誘って……ふふ、ふふふふ。

 笑いが止まらない!


 あーあの英雄様(笑)が嫌がっている顔!

 もう……ふっふっふ。


 よし、そうと決まったら誘いに行こう!







 二時間後。

 俺は100人ほどの仲間を得た。

 こう見えても俺は顔は広いんだよ。

 なんか一緒に【英雄】達に嫌がらせしない?

 って言ったら喜んで協力してくれることになった。


 さすが【英雄】様。

 人望ありますね(笑)


 で、後は許可さえ貰えれば……あれ?無理じゃね?


 ……うおーー俺馬鹿か!

 許可貰えなきゃ何にも出来ないだろ!

 あーー俺の天才的な案がーー。

 まあ、とりま許可貰いに行ってみるか。


 《一時間後》


 ってことでやってまいりました。

 えーっと……なんて読むのかわかんない場所!

 ほんとに一文字も読めない。

 これ俺の学力が低いの?

 違うよね違うと思いたい!


 はぁ……で、許可をもらうための場所は?

 えーっと?……あそこだ。


 「どうかされましたか?」


 後ろを振り返ると若い女の人が立っていた。


 「あ、えーっと……許可をもらいたくて……あそこ行けばいいですかね?」


 さっき見つけた場所を指さした。


 「はい。あそこで良いですよ。それで、何の許可をもらいにいらっしゃったんですか?」

 「えー、あのですね―――」


 包み隠さずやろうと思っている内容を女の人に行った。


 「!!!!!!それは感激です!私が許可をOKしておきますのでいち早くそれに取り掛かって下さい!」

 「え?えーっと?どういう意味ですか?」

 「そのままの意味です。私こう見えてもここの所長なんですよ。なので私のの許可が降りたってことで大丈夫です。」


 首に下げているネックストラップをみると【所長ニーシア・アシラ】と書かれていた。


 「え!あ、そうだったんですか。じゃあお言葉に甘えて。」


 普通の働いてる人かと思ってた。


 「楽しみにしてますよ。【英雄】様への処置を。」

 「……あ、はい。楽しみにしてて下さい。」


 まあ、【英雄】様って国中から好かれてんだなと思った、俺であった。








 家に帰ると俺は机の上にダンジョン周りの地図を広げた。

 許可は得られたからあとは細かいことをやっていかないと。


 えーっと?まず、ダンジョンに行くための道は3つ。

 で、どれも最終的には一つの道につながる。

 その道は……森の中か。


 春には幼体が出てくるし……今は真夏だから大丈夫だけどどうするかな?

 んーーあ、そこを英雄様にやらせれば良いのか。

 無給で。


 そのためには国の力が必要になるけど……アシラさんにどうにかしてもらうか。

 はぁ、またよくわかんない場所に行かないといけないのか……。








 「―――ってことなんですけど大丈夫ですか?」

 「もちろんです。あの【英雄】様のためなら何でもやりますとも。」

 「「ふっふっふ」」


 この人とは本当に気が合いそうだ。


 「あ、許可の申請が通りましたよ?」

 「え?本当ですか?まだ一時間くらいしか経ってませんよ?」

 「えーなんか、簡単に概要だけ国に話したらOKしてもらえました。」


 国でさえ嫌ってる【英雄】って……もはや【英雄】と言えるのか?

 てか、【英雄】様をそんなに嫌ってんだったら国も金払うなよ!

 いや、そりゃ早く【ダンジョン】を攻略したい気持ちもわかるけどさ……そんな殆ど利益にもならない存在いらないと思うんですけど……?


 まあいっか。


 「……ありがとうございました。それじゃあ、いろいろとこれからよろしくおねがいします。」

 「えぇ。こちらこそ。」


 よし、完璧だ。

 これで……【英雄】様をいやがらせる準備は出来た。

 後は実行するだけ。







 「は?どういうことだおらぁ!」

 「どうもこうも、これからダンジョンに入るには通行料がいりますよっていうことですけど?」

 「だからそれがどういうことなんだってきいてんだ!なんでいきなりそんな事になったんだよ。」


 やばい。笑いそう。

 周りを見てもみんな笑いを堪えていた。


 「えーっと、まずあなた達が色んな所で横暴で馬鹿な行為をしまくっていたから通行料をかけてあげようっていうことです。わかりませんか?」

 「俺らが何したっていうんだよ?あ?」


 ほんとにコイツら馬鹿なのか?

 しかも周りの奴らもそれっぽいこと言ってるし……。


 「まず飲食店合計232店舗ほどでの大声や恐喝、次に小売店108店舗でも恐喝や強奪。他にも―――」

 「……わかったよ。でも、ここまでする必要は無いだろうが!」


 こころなしか声の大きさや気迫がなくなっていっている気がする。


 「あのさ……お前ら馬鹿なのか?えーお前らがこんな事したから国全体で合計約115億円の損失が出ている。」

 仲間になってくれた店舗とか、他の【英雄】たちに荒らされた店の本来の売上とか考えたらこれくらいの損失があった。

 どうやったら一つの国で2年間にこんなに損失が起きるのやら。

 はぁ。


 「5億?それって……どれくらいだ?」


 5億をわからないって……さすが【英雄】様だわ。

 すごい教養を受けてきたんですね。


 「お前らが一生かけて稼げる金が1億円くらい。だから、お前らのせいで115人の一生くらいの額を無駄にしてんだよ。わかる?」

 「うっせぇ!」


 ついに、論理的に反論できなくなったか。

 まあ、最初から論理的でも何でもなかったけど。


 「大丈夫大丈夫、別にここを一回通るのに1000円しかかからないから。」


 まあ、返ってくる時も1000円取るから合計2000円だけどね。


 「そんな事は―――」

 「後はアシラさんに言ってよ。捕まっても知らないけど。」


 そう言ってアシラさんを呼ぶと【英雄】たちはみるみる青ざめていった。

 あの後知ったのだが、アシラさんはこの国で5本の指に入るくらい立場の高い人らしい。

 しかも誰でも知ってくらい有名な。

 それを見分けられなかった俺って……悲しい。


 「わかった。わかったから。これからは通行料を払うし誰にも迷惑をかけないから、アシラ様だけは。」

 「おやおや?誰に向かって口を利いているんだい?」

 「……どうか、これからは真人間になるのでアシラ様を出すのだけはおやめいただけませんか?」

 「うん。よろしい。じゃあ、みんな後はよろしく。」

 「「「「「もちろん!」」」」」


 

 こうして、ただの飲食店経営者だった俺は【英雄】様たちへ嫌がらせすることに成功したのだった。

 めでたし、めでたし?


 「あの、―――さん。」

 「ん?なんですか、アシラさん?」

 「今から―――。」

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