第7話 モデル
何でこんなことになった。
「うん! いい感じ! 次はもっと色っぽく!」
何だそれ、分かんねえよ。
服買いに来たのに気づいたらモデルのようなことをさせられていた。しかも俺一人だけじゃなくて愛衣羽も一緒に。
「兄妹かしら? 悪いけど撮影に協力してくれない?」
筋肉がすげえ女の人にモデルの協力を頼まれた。しかもいつも通り男だと思われた上に愛衣羽の兄と認識されちまってる。とりあえず俺はナンパと同じように断ろうとした時。
「良いですよ、その代わり私達に似合う服をいくつか頂ければ」
「分かった。報酬として服を送らせてもらうわ」
「は?」
と言った感じで話がまとまった、勝手に。俺が女だと言う前に男物の服を押し付けて着替えさせられた。マジでこの人も俺が女だって気付けよ、一応Bはあるんだぞ。
「野乃羽君! 表情が硬いわよ! リラックスリラックス!」
んなこと言われても初めてだから緊張するっての。後君じゃねえ! なんで愛衣羽はなんか慣れた感じなんだよ。俺全く慣れる気がしねえんだけど。
「愛衣羽はなんでいつも通りやれてんだよ」
「こんなのいつもの盗撮と変わんないじゃない。むしろ堂々と撮ってくれる分ウザくなくていいわ」
理解できねえよ。ファッション誌の撮影盗撮と一緒にすんな。あいつらのは責任感とか必要ねえから楽だろうが。わざわざブレるように動いてもいいのが撮れるまで頼んでも無いのに撮られるんだぞ。バレてねえとでも思ってんのかな。
ふと、俺の周囲に沢山の人がいることに気付いた。さっきまで撮影の開始を見守ってた人たちに加えてこのショッピングモールに買い物に来た客も俺らの撮影を遠くから眺めているようだ。こんな素人の撮影見て何が楽しいんだよ。
「あの撮影している人たち知ってる?」
「知らない! でも男の人超イケメンだよね!?」
「あの女の人も可愛いな。どこのモデルだ?」
「帰ったらネットで探してみよ」
結構楽しそうだな。まあ愛衣羽は可愛いしその気持ちも分かるがな。
「私のとこだけ納得してるんじゃないわよ」
「だって本当の事だし」
「もう……」
何故か愛衣羽に心を読まれているがまあいいか、愛衣羽だし。
それから他のポーズも撮られながらなんとか慣れようとしたが、結局硬いのは変わらなったから一度休憩をとることになった。
「ふぅ……」
「やっぱ慣れない?」
「ああ、どうしてもな」
ショッピングモールにあるベンチに座って一息ついた時、愛衣羽が声をかけてきた。愛衣羽は俺の隣に座り、話を続ける。
「姉さんいつも男っぽい恰好してたんでしょ? ならこの服にも慣れているだろうし、何が問題なの?」
確かに俺は好んで男っぽい服を着ているし、仕事でもマスターのおふざけで男装のコスプレをさせられた。そこは大丈夫なんだけどな。
「あのカメラ向けられると緊張するんだよ。いつも向けられるのスマホだろ? あのカメラのガチ感がなんか無理なんだよ」
「そこが気になるのね」
愛衣羽はそれだけ言うと顎に手を当てて解決策を考え出した。横顔が凛々しいな。
「逆に愛衣羽は何で余裕なんだよ」
「さっきも言ったけれどあのカメラと盗撮する奴らが向けてくるカメラは私にとって一緒なのよね」
だからそれが何でだよ。
「そこらの奴らとプロじゃ流石に違げえだろ」
「一緒よ」
そう言って愛衣羽は自分のスマホを俺に見せる。そこには電子版のファッション誌のページが開いてあった。
「結局完成品を見るのはプロじゃないのよ。あくまであの人たちは私達を綺麗に撮ることが仕事。あの人たちのことはそこまで意識しなくていいのよ。そこらの人は姉さんをありのまま見るだけでも惚れるんですもの、わざわざカッコつける必要も無いわよ」
それもそうだな、普段意識しなくても俺は女にもてる。一目惚れされることも多い。自分でこんなこと言うのも調子乗っているみたいで嫌だが事実だしな。
「それにカメラなんか気にしてる暇があるなら私を見なさい。私だって撮影のために結構いい服もらったのよ。それなのに私を褒めることなくカメラなんか気にして。まさか無機物に負けるとは思わなかったわ」
「お、おう。すまん」
愛衣羽は俺の頬を両手で挟んで両目をのぞき込んでくる。少し怒っているみたいだったから反射で謝った。
それから視線を下に向けて愛衣羽の服を見る。
「さっきまでの服も可愛いからあんま変わらん」
「そうくるのね……」
正直可愛い服はあまり見ないのと元々愛衣羽の服のセンスが良すぎるせいでどれ見ても同じくらい可愛く見える。愛衣羽もこの返答を予想していたようだ。返し方ミスったかな。
「まあ良いわ。これも可愛いんだから姉さんはちゃんと私を見なさい」
「ああ、分かったよ」
愛衣羽なりに俺がどうすれば緊張せずに済むか考えてくれているようだ。優しい笑顔を向けてくれる愛衣羽を見て俺も自然と笑顔になる。
「今だ! シャッターチャンスッッ!」
遠くから聞こえる声に驚いて、俺と愛衣羽は二人揃って声がする方を振り向いた。
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