変わらぬ愛
タヤヒシ
第1話 母の習慣
森上大吾が夜リビングで本を読んでいた時、妻の大宮百合もいた。
「ねぇ父さんのこの写真やっぱりしまおうよ」
百合が先に静寂を破った。
そしてそう言いながら手にした写真は亡くなった父の写真だった。
それは母と父が一緒に撮った写真で母も映っていた。
母は心臓に病を患っており、父が亡くなったタイミングで病状が悪化した。
「母さんに悲しいことを思い出して余計心臓が悪くなってもいけないし」
母への気遣いということを知ってほしいのか大宮はそう付け加えた。
「それに最近寝る時スマホで何か聞いているし、それぐらい余裕が出てきたってことでしょ?だけらもう思い出させたくないのよ」
「そうだな」
一方大吾はそっけない返事だった。
二人とも慣れてきたせいなのかこの夫婦には愛を伝えることが少なかった。
森上も伝えたいとたまに思ったが今更少し恥ずかしいなんて思って口に出さずにいる。
「でもイヤホンは耳に良くないと思うから外してくるね」
「うん」
そう言いながら百合が母の寝ている寝室に行った。
百合はイヤホンを母の耳から取り、イヤホン の線を引っ張ろうとしたが、流行りを知らない母が何を聞いておるのか気になったのでイヤホンを耳に付けた。
「キャァ!!」
内容を聞いた百合は震えた消えで悲鳴を上げた。
「おいどうした!!??」
森上が心配したように部屋に飛び込んできたが、病気の母が寝てる以上大きすぎる声は出せなかった。
一見部屋に危険なものは見当たらなかった。
「こ、これぇ」
すると百合は震えが収まらない声でイヤホンを渡してきたせいなのか
「イヤホンがどうかしたのか?」
イヤホンを受け取った森上は耳に付けてみた。
するとそこに流れた音は——
「ンガァァァーーぷうぅーー、ンガァァァーーぷうぅーー」
落ち着いた音楽でもbgmでもなくうるさいいびきだった。
でもそれはどこか聞いたことのあるいびきで⋯⋯
「これってもしかして——」
「父さんの…⋯」
森上が聞くより先に百合が答えた。
そこには昔悪戯で録音した父のいびきが流れていた。
——次の日——
「ねぇ母さん」
「ん?」
「どうして父さんのいびき聞いて寝てるの?」
朝ご飯を全員揃って食べている時百合が昨日のことを聞いた。
「あはは、見つかっちゃったか」
知られたくなかったのだろうかそう言う母。
続けてこう言う——
「慣れちゃったからもう父さんのいびき聞いてないと寝れなくなっちゃったのよ〜」
けれども曇った表情はどこにもなく楽しそうだった。
その後は一切会話がなかったが森上も百合も考えたことはたくさんあった。
そして森上が仕事に出かけようとした時——
「いってらっしゃい、あなた。気を付けてね、愛してる」
そう言いながら百合が軽くキスしてきた。
普段そんなことをしないのにと森上は驚いたが不思議と気持ちが軽くなった。
そして—
「うん。俺も、愛してる」
そう言って出かけたのだった。
果たして母の聞いていたそれは習慣が愛になった物なのか。
それとも愛が習慣になったのか。
ただどちらにしても変わらないことは、永遠に変わらぬ愛があることだった。
変わらぬ愛 タヤヒシ @tayahishi
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