最近、彼女ができた。俺にその記憶はない
雪鵠夕璃
第1話 抜け落ちた記憶
目を覚ました時、最初に視界に入ったのは見知らぬ天井。そして何処か落ち着くような甘ったるいアロマの香り。腕に感じる人肌の温かさと重み。
「・・・人肌?」
おかしい。まず落ち着こう。俺は、
「・・・実は湯たんぽでした的な」
チラッと横に目をやる。然し、そこにあるのは、お手頃サイズの湯たんぽさんではなく、女の子だった。しかも超絶可愛い。そして知らない人。
「・・・終わった」
淡い希望が崩れ落ちる音がした。恋愛経験ゼロの非モテ童貞が善行を何千回転生して徳を積まないと起こりそうにないリア充爆発展開がこの身に降り掛かってくるとは…陽キャによるいじめドッキリか、彼氏登場の一生財布扱いの方がまだ信じられる。というかドッキリであって欲しい。これが真実だとしたら、俺はいつから非モテ童貞からプレイボーイにジョブチェンしたんだと心配になる。
「昨日の俺・・・何やってたんだよ」
頭をひねって気合いで昨日の記憶を思い出そうとする。然し、そんな根性論でどうにかなるなら苦労もしない。どうしたものか…。
「・・・俺のスマホ?」
もしかしてこのスマホの中を確認すれば、彼女と俺の関係性だけでなく、昨日の事も思い出せるのでは!? そうと決まれば、早速ロック解除してっと…
「あれ?ロックが外れない?」
確かパスワードは029014。『お肉美味し』って覚えやすく設定したはずだ。しかし、何度打っても解除されない。これはもしかして・・・昨日、パスワードを変えたのか?いやいやいや、何故??あ、そうえばスマホケースのとこに学生証入れてたよな?こういう時に手帳型ケースは便利だなと思う。早速確認してみたが、学生証がない。代わりにプリクラの写真が入っていた。そのどれにも俺と隣で寝ている女の子が写っている。しかも【付き合って一年突破♡】と書いてある。
「・・・一年?いやいや待て待て。一年…ってまだ高校一年だぞ、俺は」
中学生の頃は正直に言って恥ずかしながら女子と話したことが無い。だから、この一年は高校に入ってからとなる。・・・は?どゆこと?まだ一年経ってないはずだろ!? キョロキョロと周囲にカレンダーがないかを見渡す。
「あった、カレンダー。えーっと・・・今年は・・・2022…年?」
おかしい。今年は2021年のはずだ。忘れるわけが無い。高校入学式の日を今でも鮮明に覚え・・・?? 入学式に誰と向かった?隣にいたやつって誰だ?顔にモヤがかかって…□□…名前…なんだっけ?
「何が・・・起こってんだよ」
気分が悪い。自分だけが別の世界に来てしまったかのような。もしくはこの世界はVRの中で、本当の俺は今も目覚めることなく寝たきりとか?そんなSFじみた気色の悪い話はテレビや漫画の中だけにしてくれ。非現実的な出来事ってのはフィクションだからこそ面白くて、現実に起きたら面白くなんてない。だめだ…考えれば考えるほど気分が悪くなる。
「記憶喪失にしては・・・1年前だけとかそんなピンポイントな消え方あんのかよ…」
ため息をつく。一年前の記憶のみ消えていることを把握はできたが、その前以降の記憶にも彼女の存在はない。やはり彼女は一年前に出会ったのだろう。然し、それ以外の収穫はない。まぁ、彼女に聞けば色々と分かるだろう…。
「・・・ほんとに俺の彼女なのか…キミは?」
俺は未だ心地よさそうに眠る彼女にそう呟いた。
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