第5話 シャルナの謎

「私の事を守って頂き誠に感謝致します」


 頭を下げ、丁重に謝辞を述べるシャルナ。その様子から感謝しているようだ。

 しかし、そんなシャルナへヴィルドレットは違和感を覚える。


「この男は君の『力』を欲しているんだよな?ならば君はその『力』を既に持っているという事でいいんだよな?」


「……え、えぇ……」


 またしてもヴィルドレットのおかしな言い回しに困惑気味のシャルナ。しかし、そんなシャルナをよそにヴィルドレットは一人考え込む。


(……どう考えてもおかしい。さっきは勢いで御先祖様コイツの相手をしたが、シャルナからすれば御先祖様こんな雑魚なんの脅威にもならないはずだ。)


 『終焉の魔女』としてのシャルナの実力を知るヴィルドレットは、今、目の前に居るシャルナの『誠に助かった』という姿勢がどうしても納得出来ない。


 そんなヴィルドレットへシャルナが恐る恐る声を掛ける。


「あ、あの……」


「――ん?」


「烏滸がましい事を承知の上であなたに一つお願いがあります……」


 ミグルドが倒されてからというもの、心なしかヴィルドレットへ対するシャルナの態度や言葉使いが変わった事へも少し違和感を感じつつヴィルドレットは返事をする。


「あぁ、もちろんだ。言っただろ? 俺は今、君の為に存在しているんだ。そんな君の願いなら何でも聞くつもりだよ」


 まさか、ここまでの言葉が返ってくるとは思ってもみなかったシャルナは(それじゃ、遠慮なく……)と、ばかりに意を決してその要望を口にする。


「超級剣士をも凌ぐ力をお持ちのあなただからこそ頼める事です。 ――どうか、今後も私を守って頂けませんか?」


「……あぁ。そんな事か。 そんなの言われるまでも無く、最初から俺はそのつもりだ」


「……ほ、本当ですか!?ありがとうございます」


 シャルナは再び頭を下げ、感謝の意を告げる。


「……しかし、なんだ……俺も君の状況を知りたい」


 今のシャルナについての謎が多い事から、ヴィルドレットはまずはその全容から把握しようと試みる。



 ◎



「では、改めてまして、私はシャルナ・スカーレットと申します――」


 シャルナの自己紹介から始まった――即ち、『終焉の魔女』の過去への謎解き――


 そこから分かった事は予想通りの事もあれば意外なものもあった。


 まず、『終焉の魔女』として君臨していた頃のような圧倒的破壊の力を今のシャルナが持っていない事。


 それは果たして…… まだという事なのか、それとも、ヴィルドレットがこの時代へ転移してしまったが故の歴史の歪みからくるものなのかは不明だ。


 多少の『攻撃魔法』は使えるものの、相手が超級剣士ともなるとその力も無力に等しいらしく、ヴィルドレットへ敵意を向けた際も、まさかヴィルドレットがここまでの手練れとは思ってなかったらしい。


 それから、シャルナは『化け物』でも『魔女』でも無く、人間だったと言う事。もちろん『不老不死』でも無い。


 そして、やはりシャルナは世界初の魔術師――いや、その元となる『魔法使いオリジナル』だったという事。


「――なるほどな。魔術が存在しないこの時代では、その強弱に関わり無く、人智を超えた超常現象に興味を示す者が湧くのも当前だな」


「……はい。今のこの混沌とした時代に私のこの力は『戦力』として期待されているらしく……父と母はそんな私を一生遊んで暮らせる程の大金で売ろうとさえしました」


「――で、君は一人家を出てアテも無くこの海辺を歩いていたところを俺と遭遇したというわけだな?」


 シャルナはヴィルドレットの言葉に頷くと再び、口を開く。


「今や、私は有名人です。 私の事を『金になる魔女』と呼ぶ人すら居ます。 私は戦争が大嫌いです!戦争の道具にされるなんてまっぴら御免です!ですが、私にはその身を守る力がありません。ですから……もし、あなたが私に何か縁を感じて頂けたのなら……」


「――あぁ、何度でも言うよ!俺は君の為に今ここに居る! やっと君の力になれる……本当に嬉しい事だ!この先ずっと――死ぬまで君を守るよ!」



 こうして、『魔女』に恋した『人間』と、『魔女』として残酷な運命を辿る事となる一人の少女との物語が、今始まった――

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