第9話 懐かしい匂い

 『終焉の魔女』に唯一対抗し得る存在――『魔剣士』。


 その存在に一番近しい者として白羽の矢が立てられたのが、齢十にして超級剣士 序列第一位に選出され、当時世界を驚かせた天才剣士『ヴィルドレット・ハンス』。


 そんな魔女討伐連合としてのを卵のまま『終焉の魔女』討伐に送り出す事など勿論あろう筈もなく。 かと言って魔女討伐以外で命のやり取りを行える機会は少なく、それはそれで大問題。


 実戦経験ゼロの『世界最強』など何の役にも立つはずがない。


 故に、ヴィルドレットには実戦経験を積むという名目である任務が与えられた。


 その任務内容とは――世界各所に、ごく稀に出現する魔獣――そのの討伐だった。


 幾ら稀でも、その対象が『世界中の全て』ともなれば話は別。

 大体一年に一回くらいのペースでヴィルドレットは魔獣を討伐していた。 しかも、たった一人で。


 そして、今回の『終焉の魔女』討伐に際してもそのスタイルを崩す事無く、単身での討伐を臨んだ。


 しかし、これは決して魔女の力を舐めているわけではない。

 その証拠にヴィルドレットはこの戦いで命をす覚悟だ。

 

 流石の『世界最強』の英雄も相手が『終焉の魔女』ともなると気負い負けしている事が先程のヴィルドレットの様子からして見て取れる。



 ◎



 『魔女の棲家』こと、エルブラム山へ足を踏み入れたヴィルドレット。

 鬱蒼とした森の中は外の光を遮り、更に夕刻も重なって漆黒の暗闇が辺りを侵食してゆく。

 

 そんな異様な雰囲気が漂う森の中を一人歩き進むヴィルドレット。

 まだ見ぬ『化け物』を思い起こしては、さぞ、己の中に芽生える恐怖心に打ちひしがれてるかと思いきや、

 

「……なんでだろ……懐かしい」


 間違い無く人生初の『魔女の棲家』。だが、ヴィルドレットの心は恐怖どころかむしろ、ほっと心が和む思いがして、

 

 『――私の旦那さんになってくれる?』


「――やっと……会える……」


 自然と出た呟き。自分で言ってて、意味が分からない。


 でも、そんな気がして――


 そんなヴィルドレットの視線上――漆黒の向こう側から浮かび上がるように現れる人影。


 それは、顔を覆い隠す程のつば広帽子と黒装束を身に纏い、右手に杖を携えた一人の少女の姿だった。

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