第25話 仕事の斡旋

 インフィはジェマとフローラも連れてエミリーの家に帰る。

 そしてポーションを転送してからの出来事を三人にしてもらう。


 インフィが王都を出発した直後から、エミリーは冒険者ギルドに依頼し、ジェマとフローラの所在をつねに監視させていた。

 拘束するのが一番なのだが、塩の兵士になった者は『モンスターを殺すこと』を最優先し、それができない状況に追い込まれると激しく抵抗する。

 ことは二人の命だけで済まなくなる可能性があった。

 そこで次善策として監視を選んだのだ。


 エミリーは、インフィからポーションが送られてすぐに二人の元へ向かった。

 そして強引に飲ませる。


「意識を取り戻したとき、本当に驚いたよ。口の中に、あのなんとも言えない味と匂いが充満していた……」


「喉の奥も気持ち悪いしぃ……目の前には、臭い匂いがする瓶を持ったエミリー様がいて、やり遂げた顔をしているしぃ。本当、訳が分からなかったわぁ」


 インフィは自分が作ったポーションを思い出す。

 臭いし、なによりもあのヘドロのような質感が最悪だった。絶対に自分では飲みたくない。

 ジェマとフローラは、意識を取り戻したとき、すでに飲み終わったあとだったらしい。不幸中の幸いといえる。


 そしてやはり、塩の兵士だったときの記憶はないと言う。


 発症する前。二人は冒険者ギルドの依頼で、モンスター狩りをしていた。それが完了し、王都に帰る途中――なにかが起きた。そこからの記憶がなく、気がついたら口の中にヘドロの残留物があり、匂いが充満していたというわけだ。


 ただ、なんとなく。発症期間中は、どこか誇らしい気持ちに包まれていた。そんな気がする――ジェマとフローラはそう語った。


「それにしてもインフィ。治療薬を作ってくれて、本当にありがとう。改めて礼を言う」


「そうそう。あたしたちは記憶なかったけど、毎日ボロボロになるまでモンスターと戦ってはポーションで治して、また戦うって日々だったらしいじゃなぁい? そんなの塩化が進行する前に死んじゃうわよぉ。インフィちゃん、ありがとう。報酬は、いつか必ず払うわね」


「いえ、報酬だなんて。ボクはただ、ジェマさんとフローラさんとお別れしたくなかっただけです。なので、これからもボクと友達でいてください。それが報酬ということで」


「インフィ……君はなんていい子なんだ……君と友になれたこと、私は誇りに思う」


 ジェマは真面目な顔で言う。


「本当よねぇ。いい子な上に、もの凄い力と技術を持ってるわぁ。ポーション作りだけでなく、凄い魔法武器まで作れるしぃ? インフィちゃんが作った剣が、伝説の盾を真っ二つにしちゃったもんねぇ?」


 フローラがにこやかに語る。


「いやぁ。ジェマさんとフローラさんに売った魔法武器は、そう大したものじゃありませんよ。あれがボクの本気だと思われては困ります…………」


 と、そこまで言ってしまってから、インフィは慌てて口を塞いだ。人造精霊が「迂闊すぎるのじゃぁ」と呆れている。


「この剣はインフィが売ってくれたというだけでなく、インフィが自分で作ったのか?」


「なになに? インフィちゃん、魔法武器まで作れるの?」


 ジェマとエミリーは、そう問いただしてきた。それにしても、さほど驚いた様子がない。

 魔法武器や魔法防具は全て遺跡から出土する物だけで、現代の技術では作ることができない。それが常識ではなかったか。インフィがそう尋ねると――。


「インフィならそのくらいできても不思議ではないからね」


「インフィちゃん。あなた、自分が常識的な存在に見えるとでも思ってたの?」


 ジェマは敬意を、エミリーは呆れを込めて言う。

 いずれにせよ、驚くには値しないらしい。


「えっと……白状します。お二人に売った魔法武器は、ボクが作りました。より正確に言うと、手に入れた武器に魔法効果を付与しました。なぜボクがそういう技を持っているかは……詮索しないでください」


 千年前の魔法師の記憶がある。

 それを全ての人が受け入れてくれるとは限らない。ジェマとフローラが受け入れてくれるとしても、そこから話が広がり、トラブルを呼ぶ可能性がある。

 だから今しばらく、エミリー以外には秘密にしておこう。


「うふふ。素直に白状してくれたから詮索はしないであげるわぁ。ずっと妙だと思ってたのよぉ。だって、あたしがジェマの剣を羨ましがったら、都合よく弓が出てくるんだもの。まるで、あたしのためにその場で作ったみたい。そのあとのインフィちゃんの言動を見れば、魔法武器を作れるって考えたほうが自然だものぉ」


 やはりフローラは最初から感づいていたらしい。

 インフィとしても、そこまで本気で秘密にしたがっていたわけではない。が、語るつもりのない情報が筒抜けというのは今後困る。自分の言動に気を配ろう、と決意する。


「しかし、治療用のポーションを作るのに、もの凄い手間がかかったのだろう? 私たちからなにもしない、というのは心苦しいな。そこで提案なのだが。私たちは仕事柄、色々な人と会う。職業も身分もバラバラだ。そして深い悩みを抱えている人たちもいる。それは普通なら不可能でも、インフィなら簡単に解決できる悩みかもしれない」


「なるほどぉ。インフィちゃんに相応しい仕事があったら斡旋しようってわけね。いいアイデアだと思うわぁ。世界から悩みが一つ消えるし、インフィちゃんは仕事をもらえるし」


 二人の提案を聞き、インフィは考える。

 塩の兵士の治療薬を作れるというのは、もう冒険者ギルドに知られている。それに加えて魔法付与の技術がバレても、そう違いはないだろう。

 そしてメリットが大きい。なにせ物作りの仕事を斡旋してもらえるのだ。物作りは楽しい。ましてそれがインフィにしか解決できない仕事となれば尚更だ。


「よいのではないか? 吾輩、ジェマとフローラを信頼しておる。二人の紹介なら、妙な仕事は舞い込まないじゃろう」


「私も悪くないと思うわ。冒険者ギルドって、いつも面白い仕事があるわけじゃないし。コネは大切よ。ジェマとフローラを通じて、コネを作っておきなさい」


 アメリアとエミリーも賛成のようだ。なら断る理由はない。

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