告白したクラスメイトが義理の妹になった。モテ期なんてこなければよかったのに!
白玉ぜんざい
第一章
第1話
モテ期が来た。
俺、神楽坂遊介がそう実感したのは高校二年の新学期が始まって一週間が経過した頃のことだった。
ツンデレ転校生とは運命的な出会いを果たし、
中二病な後輩にはマスターだとか言われて慕われ、
お姉さん系先輩にはなぜか付きまとわれる、
これまでたった一度でも異性に好かれたことのないこの俺が、複数の異性からここまで猛アプローチを受けるなんて、これをモテ期と呼ばずに何と呼ぶのか。
だから。
「……話って何ですか?」
今の俺ならば好きな相手に告白しても良い返事をもらえるのではないか、なんて考えでとある女生徒を屋上に呼び出した。
大幕高校二年三組、四条撫子。
黒髪ロングの清楚系清楚な美少女。
周りの女子に比べても文句なしのスタイル。巨乳というわけでもないが、全体的なシルエットのボディバランスが完璧なのだ。おとなしいというか奥ゆかしいというか、まさに大和撫子と呼ぶに相応しい彼女は、当然ながら男子に人気の女子生徒だ。
「悪いな、わざわざ屋上まで来てもらって」
ポニーテールでまとめた長髪が、びゅうっと吹いた風になびく。さらさらと、まるで空中を流れる川のように、一本一本が綺麗に揺れた。
「いえ、それは大丈夫です。それで、お話があると伺いましたが?」
「あ、ああ」
なんでこの子この雰囲気で察しないの?
それとも察した上でそういう感じなの?
だとしたらサディスティックが過ぎませんかね? 俺、異性に告白するとか初めてのことなんだけど。屋上とか校舎裏といった校内の告白スポットランキング上位の場所なら何となく察してくれると思ってたんだけど。
そうしたら楽だったのに、まさか鈍感系ヒロインだったとは。
「えっと、何と言ったらいいのですかね」
ついつい、俺も敬語になってしまう。
放課後の屋上は夕焼けに照らされて、見渡す校内はどこか幻想的だった。まるでアニメや漫画の世界にいるような気分に陥ってしまう。
しかし。
これはあくまでも現実。
「俺、四条のことが好きなんだ。だから、付き合って欲しい」
精一杯の思いをぶつける。
どこにでもあるような、ありふれた告白だった。
けれど、恋愛初心者の俺にはこれが限界で、こんな告白でさえ声も手も震えていた。
「えっと」
暫しの沈黙。
グラウンドで部活に精を出す野球部やサッカー部の声だけが響く中、ようやく四条が声を発した。そこで、俺は下げていた顔を上げる。
「どうしてわたしなんですか?」
「へ?」
そんな質問が返ってくるとは思っていなかったので俺も間抜けを声を出してしまう。
どうして四条撫子が好きなのか、なんてそんなの野暮な質問だ。
人を好きになるのに理由が必要だろうか。きっかけこそあれど、気づけばその人を目で追い、いつの間にか気にして、ふとした時にその人のことを考える。そうして、ああ俺はこの人のことが好きなのかと自覚する。
そんなものだろう。
強いてきっかけを思い出すのであれば、それは昨年の文化祭だ。
一緒のグループになった俺に、気さくに話しかけてくれた。異性とはあまり話すことがなかった俺に、まるで以前から友達だったかのように話しかけてきたのだ。
ただ、それだけのこと。
だけど、それだけのことでも、モテない思春期男子からすれば大きなことなのだ。
「だって」
すっと、顔を背けて、四条は短く言葉を発する。
ちらと俺の様子を伺うようにこちらを見て、もう一度口を開いた。
「可愛い転校生とは初日から仲良くして、後輩の女の子の……その、胸を触るし、美人な先輩からは告白されてましたよね?」
「……え?」
強く聞き返す。
え、全部見られてたの? そんなタイミングいいことある? いや、悪いことある?
「あれだけの女性からアプローチを受けているあなたが、どうしてわたしに告白をするのかが分からないんです」
「えっと、だから、好きだから、なんですけど」
たどたどしくも、もう一度その言葉を発する。
そして再びの沈黙だった。
「少し、考えさせてください」
それだけ言って、四条は屋上から姿を消した。
俺が知る限り、告白の返事が「考えさせてくれ」といった保留を促すものだった場合の告白成功確率は非常に低いものである。
屋上に取り残された俺は、春先の少し冷たい風を受ける。
夕暮れがいっそう悲壮感を強くしているような気がするが、その辺は気にしないでおこう。
なぜ、調子に乗ってしまったのか。
今じゃなかった。
これからゆっくりと友達から始めて仲良くなればよかったのに、結果を急いでしまった。
これも、何もかもモテ期が悪いんだ。
「……あー、選択肢間違えた」
モテ期到来に、何かしらのきっかけがあるとすればきっと一週間前のあの日だろう。
あの日から、俺の日常に変化があったのだから。
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