第35話 こんな休みがずっと続けばいいのに…

「今日はなにしてるの?」


コントローラーを両手にモニターと格闘している俺の横から柚子ちゃんがそう言った。


「今日はこの女の子が好きな男に振り向いてもらうために男が好きなものにたくさん挑戦して男を振り向かせるって言う恋愛ゲームをしてるんだ。」


正月になってから毎日こんな感じだ。昼前まで寝て起きたら柚子ちゃんが作ってくれたおせちをつまみながら、ここ最近消化できていなかったゲームを片っ端から攻略している。


「そうなんだ、これおもしろいの?」

「おもしろいよ。この女の子がアピールするいろんなことに対してそれぞれエンディング分岐があるんだ。どのエンディングもいいんだけど中には全部アピールを成功させて超ハッピーエンドに持ってくエンディングがあるんだけど、それがなかなか難しくってね。今はそれに向けて色々試してるんだ。」

「へ、へぇ〜そうなんだ…」


熱く語る俺を見て少し引き気味の柚子ちゃんだった。そんな柚子ちゃんの様子を気にせず、黙々とゲームを進めている。今日は恋愛ゲームをしているが、昨日はFPSのゲーム、その前はスマホゲームなどあらゆるゲームをやっている。


「そんな毎日やってて飽きない?」

「そうだね、飽きないね。毎日違うゲームやってるからかもしれないけど、同じゲームでも多分飽きないと思うよ。」


俺は昔からゲームしかやってこなかった。親の転勤が多いこともあって、コロコロと学校が変わっていたから友達を作ろうにも作れなかった。そんな俺の様子を見かねて親が昔からたくさんのゲームを買ってくれた。その経緯があって昔からゲームしかやってない。むしろゲームが友達的な。寂しくなるけど。


「私はこういうのは全くやってこなかったからよくわかんないなぁ…違うゲーム一緒にやった時蓮お兄さん上手だなって思ったもん。」

「そんなことないよ。まだまだ俺も下手な方だから。」


柚子ちゃんが横で見てるだけで暇そうにしてる時があったから一緒にできるゲームをやったりしていた。


「これ難しい!蓮お兄さんすごいね…」


と柚子ちゃんはプレイをしながら言っていた。

最初の俺もこんな感じだったなぁって柚子ちゃんのプレイを見ながら楽しくやっていた。


「今回のこのゲームは難しいなぁ…」


今やってる恋愛ゲームはなかなか俺の見たいハッピーエンドを見させてくれないようだった。


「こういうのって攻略法?って言うんだっけ?そういうのあるんじゃないの?」

「俺は攻略は見ずに攻略したいんだ。」

「でも、どうしてもクリア出来ない時はどうするの?」

「その時は…うん…見るけれど…」

「難しいと私頭パンクしちゃうから分かんなくなったらすぐ見ちゃうな…」


たしかにその通りだ。今は携帯ひとつでネットを開いて調べればいくつでも攻略法は出てくる。色々なゲームをやりはじめてから、本当に意味がわからないことがたくさんあってすぐに攻略法など調べてやっていた。それでも十分満足したけれど、とあるゲームを攻略見ずにやろう!と決めてやった時、何ヶ月もかかったけれどゲームをクリアした時の達成感が今でも忘れられなくてそれ以降まずは攻略法は見ないでプレイするようにしている。


「攻略法見ないでやる達成感とか後で調べて俺はこのルートでクリアしたけどこんなルートでもクリア出来るんだって新しい発見ができたりすると攻略法は見ないでやったほうが楽しいって感じるようになったから俺は今でもクリアするまでは攻略法見ないでやるって決めてるんだ。」

「そうなんだ。それがよくみんな言うゲームはやり込むほど楽しいってやつなのかな?」

「そうかもしれないね。昔はゲームはやりすぎるな、ゲームばっかりしているとバカになるとか言われてきたけど、こうやって考えて考えてやるならゲームも奥深いし、そんなに批判することないのになって俺は思うけどね。頭良くなった試しはないけれど…」

「私が小学生の頃とかよく言われたよ、それ。でも蓮お兄さんの話聞いてるとそうかもしれないって思ってきたよ。」

「そう考えるようになってからゲームが楽しくってやめられないんだよね。」


子供の頃ゲームを買ってもらってからは時間を忘れるくらい夢中でやっていた。それに対して母親が


「ゲームをやりすぎると馬鹿になる!!時間を決めなさい!!」


と怒られるくらいやったくらいだ。

母の言う通り時間を決めてやればよかったものを朝から夜までずっとコントローラー両手にゲーム画面を見つめて昼ごはんも危うく夜ご飯も疎かにするほど熱中していた。母親曰くゲームはやっていいが時間を決めてという考えでいたようであっさりも俺は無視していた。


「でも蓮お兄さんの楽しそうな顔見れて私も楽しいよ。」

「それって楽しいのは俺だけじゃないの?」


急に言われたので手が止まって柚子ちゃんの方へ振り向くと、柚子ちゃんは両手に顎をついて楽しそうに笑っていた。


「本当に楽しそうだね。」

「うん!私がやるよりサクサクプレイ進めてるの見る方が面白いもん。それに…」

「それに…?」


柚子ちゃんはこう付け足して言った。


「蓮お兄さんが好きなことで楽しそうにしてるのを近くで見れるから。」

「そんなに俺を見て楽しい?」

「うん、蓮お兄さんの趣味みたいなのはじめて見たし、ゲームプレイしてる時のコロコロ変わる表情とか面白いよ。」

「俺そんなに表情変えてる?」


いつも真顔でプレイしてるものだと思っていたから柚子ちゃんにそう言われた時驚いた。


「楽しそうな顔、焦ってる顔、負けちゃった時の顔とかね。いろんなリアクションしてるよ。」

「そうだったのか…」


ゲームをしている時の自分の顔なんて確認なんかしないから意外な発見だったし、恥ずかしかった。


「ずっと無表情でやってるもんだと思ってたよ…1人だとなかなか気づかないからね。」

「蓮お兄さんが楽しい時とか夢中になってる時ってこうなるんだって私も新しい発見ができた感じ。」


そんな発見されたら俺自身恥ずかしいが、知らない自分を知れたことは柚子ちゃんのおかげだ。


「あと、おばあさんが言ってたみたいに休日出かけない理由も分かっちゃった。外に出かけるのは珍しいって言ってたよ?」

「それは…ずっとこんな生活してたからね…」


周りからはそう見られていたらしい。かと言って出かける理由がないから外へ出かける必要性を感じない。周りの俺と同じくらいの年齢の人達は出かけてるイメージは強いけど。


「今は柚子ちゃんがいるからなおさらそう思われるのかもね。」

「そうだね。でも、出かけたいなって思うことないの?」

「うーん、ないなぁ…」

「そうなんだ。私の周りの男の子もよく休日は出かけてるイメージあるんだけどね。」

「休日はゲームがあればいいし、出かけたいって思う人もいないし、誘うこともないし、誘われないし…」

「も、もういいよ!それ以上は言わなくて…」


少し気まずくなってしまった。でも本当のことだから仕方ないと思って欲しい…


「これからはおばあさんとか心配かけないようにたまにはお出かけとかした方がいいんじゃないかな?」

「そうだね、これからも柚子ちゃんと一緒なら出かけることも増えると思うし。」

「そうだね…」

「ん?どうしたの?」

「な、何でもないよ。無理しない程度にお出かけしよ!」


少し柚子ちゃんは答えにくそうにしていた。一緒という単語に少し反応していた気がする。


「でも、蓮お兄さんが楽しそうならこのままでもいいと思うけどね。」


と柚子ちゃんは言ってニコニコしながらゲームの画面を見ている。

その顔はどこか嬉しそうなのと少し寂しそうにも見えた。

それから何時間か経ち、とうとう今まで苦戦していた恋愛ゲームに終止符の時が現れた。

何回か同じようなエンディングを迎えたが、ずっと横で見ていた柚子ちゃんが


「女の子ってこっちの方がいいんじゃないかな?」


と俺が今まで選んでこなかった選択肢に指を刺した。


「なんか違う気がしたんだけどさ、こっちの選択肢選ぶと余計悪くなる気がしてさ…」


もう何回も失敗しているから一度だけ柚子ちゃんの選んだ選択肢の方へ進めてみた。


「ほら、これ選ぶとヒロインのやる気下がっちゃって主人公へのアタック頻度下がっちゃうし…」

「でも、ほら見て。」


ゲーム上ではもうダメなエンディングへ向かおうとしていたが、柚子ちゃんは何かに気づいていたみたいだ。


「主人公がこの女の子のこと気にしはじめてるよ?ここまでこんなに寄り添うことなかったよ?」

「そうだっけ…?」


また同じような画面だと思っていたから全く気づかなかった。そのまま進めていると、


「あれ?なんか違う。」


いつも進めていると終わりそうなところの場面だったが、まだ終わる気配がしなかった。


「やっぱり!ここから頑張れば蓮お兄さんが見たいの見れるんじゃないかな?」

「そう…かもしれない!よし!」


いつもと違う画面を見てやる気が上がってきた。俺だけで進めたらバッドなエンディングに行くかもしれないから柚子ちゃんと一緒にゲームを進めた。


あれから1時間か2時間くらい柚子ちゃんと一緒に苦戦しながらも恋愛を成就させるために格闘していた。

そして、やっと終わりの光が見えはじめてきた。


「ここでこの選択肢を…よし!これでいいか!?」


多分最後の選択肢であろう選択を取るとまだ一度も見たことないエンディングへ辿り着いた。


「やった…!これだよ!俺が見たかったエンディング!!」

「よかったね!蓮お兄さん!」


時間をかけてクリアした達成感に2人で大喜びした。


「柚子ちゃん本当にありがとう!まさか今日中にクリアできるとは思わなかった!」

「私も楽しかったし、よかったね!」

「誰かとやるのもありだな…」


今まで1人でコツコツやってきた身だから誰かと一緒に同じ画面を見つめてゲームをクリアするということはなかった。違う目線が入るだけでこんなに簡単にできることが増えるなんて思いもしなかった。

誰かと協力するってことはこう言うことなのかとはじめて思った。

携帯で時間を確認して今がもう夕方になっていることに気づいた。そしてあのことも思い出した。


「そういえば、携帯いつ買いに行こうっか。明日か明後日ぐらいに買いに行く?」

「いいけど…もう今日でお休み終わっちゃうんじゃないかな?」

「えっ…!嘘だろ!?」


慌ててカレンダーを確認した。

確かに日にちを確認すると明日から出勤になっていた。


「マジかよ…」


いくら見直しても明日から出勤は変わらなかった。


「え、ええと…携帯はまたのお休みでいいからね?私は…頑張ってとしか言えないけど…頑張って!」

「う、うん…」


誰もが見て分かるぐらい落ち込んだ。まだ休みだと思っていた俺の心は大ダメージを受けた。


「蓮お兄さん、元気出して…」


変に柚子ちゃんに気を使わせてしまっているのが申し訳なかった。


「よし、気分転換に外へ食べに行こう!」

「いいの?蓮お兄さん。」

「もう行くったら行く!」

「蓮お兄さんがいいならいいけど…」

「柚子ちゃんは何食べたい?」

「わ、私はなんでもいいよ!蓮お兄さんの好きなもので!」

「俺はね、寿司が食べたい。」

「じゃあそれにしよ。」

「よし!決まり!」


落ち込んでても柚子ちゃんに心配されるだけだし、明日仕事なのは何も変わらない。こういう時に気分転換は大事だ。

でも内心、


「はぁ…こんな休みがずっと続けばいいのに…」


夜遅くまで起きて朝遅くに起きてゲームしておせちつまんで…こんな生活がもう終わるなんてやっぱり受け止めきれなかった。

次はあれがやりたかったこうしたかったなどを柚子ちゃんと話しながら外へ出かけていった。

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