第3話 ボーイミーツガール(ただし人とは限らない)

 野盗どもを一網打尽にした後、遺物を漁る。

 見た感じでは怪しいだろうが別にやましい事では無い。

 悪人を懲らしめたのだ、その見返りくらいはあってもいいだろう。


 そう思って伏せた時の事だった。


「――ううッ!?」


 この時、俺は堪らず驚愕していたんだ。

 余りにも信じられない出来事を目の当たりにして。


 なんでって――そりゃ足元の土面に〝人の顔〟があったもんだからさ。


 ナニコレ。

 一体いつから居たんだ?

 野盗どもに埋められたのか??

 いや、そもそもこれは人なのか???


 でもどちらかと言えば地面から出てるよこれ。

 土が顔に被さってる辺り。


 それにめっちゃガン見してくる。

 めっちゃこっち見られてるんだけど。

 顔を動かしてみたら視線が追って来るんですけど?


「テッシャだよー!」


 そして自己紹介された。何故!?


 それにどう返したらいいんだ??

 自己紹介し返せばいいのか???


 ――なにこれ怖ぁい!


 こう、敵意とか殺意とかの怖さと別次元の何かを感じてならないんだよ。

 決して敵でない事だけはわかるんだが。

 でも何を考えているのか全く読めないのがとても恐ろしい。

 凄くニコニコしているのが逆に邪悪に見えて不気味過ぎる!


 ダ、ダメだ! どうすればいいかわからない……!


 そ、そうだ、確か父はこう言っていたな。

奇怪不触スハ・モヨレ。とにかくヤバいと思ったら自分の直感に従え。その時は儂の格言忘れてもええからとりあえず触らんとこ〟と。


 何でこんな時だけ投げやりなんだ父ィィィ!!!!!


 ――い、いかん、冷静さを欠いてはならない。

 いつ如何なる時も平常心を保たねばならぬと教えられたハズ。


 よく見ればこの顔は、女か。

 土くれ顔と思っていたが、これは肌が茶褐色なだけだな。

 しかし見ただけでは本当にそうかはわからない。


 なのでそれとなく頬を摘まんで伸ばしてみる。

 好奇心が止められなかったので。


 やわらかぁい!

 プニップニだぁ!


 ――落ち着け俺、自暴自棄になるな!

 この柔らかさから見るに、年齢は恐らく俺と同じくらい二〇歳前後だろう。

 同年齢でこれ程の所業をやってのけるなど只者ではない。


「にゃはは! 君、つよいねー!」


「あ、あぁ……」


 しかもマイッペェース……ッ!!

 頬をこねくり回されようが一切意にも介さない。

 なんだ、お前の皮膚には触覚が無いのか?


 しかしわかるのはそれだけだ。

 顔だけしか見えない今、それ以上の情報が全く掴めない。

 身体はどこに行ったんだ、土の中か? それとも頭だけなのか?


 そもそも一体どうやってそこに埋まったんだお前は!


 しかも俺から気配を悟られないままに。

 暗殺者の技能スキルでも持っているのだろうか。


「じゃっ!」


 だがその正体を見極められないまま、女は「シュポッ」と地面の中へ。

 堪らず出来た穴へと覗き込むも、もう既に気配は無し。


 な、なんだったんだ今のは……。


 む、いかん、尻尾がゾワゾワしてしまっている。

 感情を抑える訓練はずっと昔に済ませたつもりだったんだが。

 くっ、まだまだ鍛錬不足だという事だな。反省せねば。


 父よ、どうやら貴方が教えてくれた以上に世界は広いらしい。

 あんな奇怪な奴に開幕出会うとか想定外過ぎたよ。


 けど、出来ればもう出会いたくないものだ。

 これならまだ賊に遭遇した方がマシかもしれない。




 それから俺は賊の遺物を回収し、再び街へと進路を取った。

 早々に峠を二つ越え、昼過ぎには目的地に到着だ。




 辿り着いたのは【商業都市アンカルースト】。

 各国から輸入された品々が集まり売買される場所である。

 首都に次いで規模が大きく、青空界の台所とも言われている。


 加えて水路が街全体を網目状にくまなく巡っているらしい。

 青空界独特の清水を流す事で清涼さを魅せているのだとか。

 なので観光スポットとしてもなかなか有名なのだという。


 実はそんな話を聞いていたから楽しみだったんだ。

 一体どんなに綺麗で素敵な街なのだろうと。


 確かに、俺の美観は優れていると言い難い。

 けど情景を嗜むくらいの感情はあるつもりだ。


 だから今は初めての景色を存分に楽しむとしようか。




 ――そのつもりだったんだけども。




「何だか話と随分違うな。これでは綺麗とはとても……」


 実際に街へと入って見れば、想像とは違う光景が目の当たりに。

 水路は汚れに汚れ、泥と汚濁まみれで。

 スンと鼻を掲げて息を吸えば、ツンと異臭が鼻腔を突く。

 自慢の清水も淀み、流れている様子も見えない。

 恐らく掃除が行き届いていないのだろう。


 それに、聞いていたよりずっと活気が乏しい。


 商業都市だから人が溢れていると思っていたのだが。

 表道露店バザール通りに歩いていたのはほんの十数人程度。

 商人達も余りやる気無さそうで今にも店じまいの雰囲気だ。

 商品自体は悪くなさそうなんだけどな。


 もしかして場所を間違えたのか?

 いや、入口にはちゃんと書いてあったしな。「ようこそアンカルースト」って。

 看板は随分とボロボロだったけれども。


 むぅ、もしかして俺の旅はやっぱり幸先良く無いのだろうか?

 こうまで不運や不可解が続くと運勢を疑いたくなりそうだ。

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