第44話 いつも頼りにしてるよ


 妖怪土蜘蛛を片っ端から斬りまくりながら、士郎は敵の陣形が崩れ、その数が急激に減り始めたことにきづく。

 敵陣の外では、ガラシャの拳銃の銃声と、ジンスケの雷光が閃き、土蜘蛛の中には恐れおののいて逃げだす者も増えてきた。


「よし。ジャウベエ、俺は団地の住民のみなさんの避難を援助しにいく。ブルーのフォローはたのんだぜ」

「まかせておけ」


 士郎が前線を離脱し、いまだ避難できていない住民の皆さんのところへ行くと、すでに救助にまわっていたピンクガラシャと小学生の少年に合流する。


「俺もこっちを手伝うぜ」

 脇差で土蜘蛛の糸を切り、捕らえられた人たちを助ける。ふと救助を手伝っている小学生が、みたことある奴だと気づく。

「あれ、おまえ確か、戦隊嫌いの」

「池波桃李です」

 少年は自己紹介しながらも、ガラシャに借りた小刀で捕まっている人たちの糸を切ってあげていた。


「ありがとな。おまえは戦隊を嫌いかも知れないけれど、いまは俺たちを手伝ってくれ。団地のみんなを助けたいんだ」

「俺、戦隊、嫌いなんかじゃないです。大好きですよ。大きくなったら俺も戦隊に入ります!」

「そうか。じゃあ、待ってるぜ」


 士郎は、ピンクガラシャと桃李少年とともにつぎつぎと捕まった人たちの糸を切って助けていく。麻酔が効いている住民のみなさんは、ふらふらつししも外へつづく土の階段の方へと避難してゆく。


 士郎が確認すると、残った土蜘蛛の数もかなり少ない。住民の避難が完了したら、いっきに殲滅できそうだ。だが……。


「ブルー! よけて!」

 キナ子の声が響く。

 士郎が振り返ると、天井から襲い掛かった赤黒い影が、葵ちゃんのブルーのスーツにのしかかる。

 絶対やられたと士郎は肝を冷やしたが、葵ちゃんは人間離れした反応速度で地に転がって、それを回避する。

「剣豪戦隊どもめ……」

 恨みのこもった女の声が響く。

「よくもあたしの可愛い子供たちを殺してくれたね」

 妖怪土蜘蛛。ただし他の個体より、一回り大きい。腕も太く、ぷっくり膨らんだ腰といい、巨大な牙ががちがちと音を立てる頭部といい、禍々しさが増し増しである。


「土蜘蛛の成虫ね」ピンクガラシャが告げる。「あたしたちが今まで相手にした来た妖怪土蜘蛛は、みんな幼体。あいつが親で、子供たちを何匹も生んでいたってわけか」


「ブラック、ブルーを連れて撤退しろ」士郎はすかさず命じる。「土蜘蛛の成体はおそらく戦闘力が高い。ここで戦うのは不利だ。外へ離脱するぞ」

「分かった。ブルーチューイ、ここは一旦引くぞ。ついてこい」

「ジンスケも早く。ガラシャは団地のみなさんを誘導してくれ。俺とブラックで敵を引きつけるから」

「あーあー」マイクをテストしている奴が一人いる。「これ、聞こえてます?」

 葵ちゃんの声だ。

 なんかさっきまで狂戦士みたいに暴れていたのが嘘みたいな可愛い声。こちらに撤退してくる蒼いスーツは、近づいてよく見ると、妖怪の返り血で蒼く光っている。


「聞こえているよ」士郎は駆けてくるブルーにハイタッチしてすれちがう。「しんがりは俺とブラックが務める。油断するな。外にも敵がいるかもしれねえからな」

「では、先鋒はあたしが……」

「だめ」

 まっさきに先陣切って外にでようとする葵を士郎がとめる。彼女に先鋒を任せたら、下手したら避難した団地の住民のみなさんまでまちがって斬りかねない。


「キナ子、先導してくれ」

「了解。いやー、なんかあたし、頼りになるイエローって感じじゃないですか?」

「もちろん、いつも頼りにしてるよ」

 戦闘中はな。


「じゃ、みんな、動くわよ」

 実質リーダーのガラシャの号令で全員が動き出す。

「おう!」


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