第9話 必ず取ります
『第二問目も、おなじく「連想10ワード」だよ。それでは、第二問!』
新しい問題に最初のキーワードが表示される。
『並木』
桜か? 一瞬士郎は反応しかけるが、ここは冷静に次を待つ。ちら見するとドカッチもピンクガラシャも冷静に無反応を決め込んでいる。が、心の中はどうなのか?
つぎのキーワードが表示される。
『生きた化石』
ドカン!という激しい音を立てて解答ボタンが押された。ピンクガラシャがブゲイスーツにアシストされた筋力で猛烈なタッチを解答ボタンにぶちかました音だった。
いや、大丈夫だって、あづち姫。士郎は心の中でつぶやく。ドカッチは反応してないから、たぶん答えは分かってないと思うぞ。
『ピンクガラシャさんが解答します』
ピンクガラシャは「ほうっ」と一息つくと、落ち着いてパネルをタッチする。「い」、「ち」、「ょ」……。
「え? イチョウなの?」士郎は思わず声をあげた。
「そうよ」文字を入力しながらあづちの声が響く。「イチョウは物凄く原始的な植物で、オスとメスがあるの。シーラカンス以上に古い形態の植物よ。生物の授業でやったの、おぼえてない?」
「えーと、うちのクラスは……、まだかな?」
とりあえずトボケておく。
『正解!』
花火のアニメーションが画面の中で踊り、ピンクガラシャがちょっとだけ自慢げにかぶりを振った。
「あづちさん、特撮、特撮」
士郎の隣で、さっきまで気配のなかったイエロージンスケがしきりにアピールしてくる。
気づいたガラシャがあわててジャンル・セレクトする。よく見ると『エンタメ』とか『文学』とか並んだ文字の脇に、『特撮』というジャンルがある。ガラシャがそれを選択すると、イエロージンスケが親指を立てて自慢げにのたまった。
「必ず取ります」
いや、おまえがそれやっても格好良くない。てゆーか、士郎の記憶では、陽介も航平もドカッチも、あまり変身ヒーローには興味がなかったはず。前回土蜘蛛から助けてやったときの反応でそれは感じた。ダークホースの井出ちゃんだって、剣豪戦隊ブゲイジャーという同好会申請を激しく拒絶していた。
ってことは、答えるのは、おめー一人じゃねーかよ、キナ子!
『第三問は、「早押しクイズ」だよ。それじゃー行くよ。第三問!』
問題画面に切り替わり、問題文が流れるように表示される。
『特撮番組「ジョーカー雷撃隊」のレッドスペードは、あるオリンピック競技の金メダリスト──』
ズバーン!という音が響き、瞬速の居合抜きさながらの動きで解答ボタンが押された。
いやだから、だれも解答権は狙ってないって……。
『イエロージンスケさんが解答します』
超高速でボタンをぶっ叩いたまんまのポーズで腕を伸ばし、どこぞのヒーローみたいに指を二本立てているイエロージンスケ。
なにか決め台詞のように、語りだした。
「いやぁ、良い問題ですねえ。この話が出てくる『ジョーカー雷撃隊』の第一話は、けっこう見た人はいると思うんですが、なにせ競技がマイナーなため、これ、覚えている人少ないと思いますよ」
「いいから、解答しろよ」横から士郎が警告する。「制限時間あるんだから」
「はいはい」素直にパネルをタッチし始めるジンスケ。「き」、「ん」、「だ」と入力していく。
レッドムサシのメットの中で士郎は首を傾げた。「キンダ……」で始まるオリンピック競技ってなんだ? そんなのあるのか?
「近代五種ね」向こう側でピンクガラシャが感心した様子で身を乗り出す。
「近代五種?」士郎はたずねた。「そんなんあるの?」
「たしかに日本じゃあ知名度低いけど、ヨーロッパ各国にとって、近代五種はなくてはならない種目よ。もしその金メダリストがレッドだとしたら、ジョーカー電撃隊、侮れないわね」
「あの、ガラシャ」ジンスケがいつになく真剣な口調であづちに訂正を与える。「ジョーカー電撃隊じゃないです。ジョーカー雷撃隊。間違えないでください」
「え? あ、ああ、……ごめんなさい」めずらしくガラシャがしどろもどに応じる。「でも、そこ、重要なの?」
「はい、重要です」ジンスケは自信満々。「間違えると、東映さんに怒られます」
『正解!』
当然のごとく、正解だった。
イエロージンスケが、ゆっくり大きく両腕を回すと、偉そうに胸の上で腕組みした。
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