剣豪戦隊ブゲイジャー2 地獄の猟犬
雲江斬太
エピソード8 『堅牢! 甲殻の僧侶』前編
第1話 『おっきいお姉さん』的意見
「失礼しまーす」
赤穂士郎が職員室に入った時、ブゲイジャー総支配である但馬守こと田島先生は、難しい顔で生徒名簿をにらんでいた。
「先生、またブゲイジャーの候補探しているんですか?」士郎が呆れたような声をかけると、田島先生は「おっ」と嬉しそうに顔をあげ、手にしていた生徒名簿を放り出した。
「なあ、赤穂。おまえはどっちがいいと思う?」
「なんの話ですか」
「桃山と水戸のことだよ」
桃山は、桃山あづち。ブゲイジャーのピンクである。水戸とは、水戸黄粉。ブゲイジャーのイエローである。
「え、それあづち姫とキナ子のどっちが好みかって話ですか?」
「ちげーよ」田島先生は最近おぼえたお得意の突っ込みで士郎の胸に馬場チョップを入れてくる。「二人の意見のどっちを取るかって話だよ」
「なんすか、それ」士郎首を傾げる。「なんの意見ですか? 初耳なんですけど」
「うん?」田島先生はちょっと困った顔を作ってみせた。が、目が完全に笑っている。もう楽しくてしょうがないって表情で、眉をしかめてくる。「桃山はな、ブゲイジャーのメンバーは現行のまま四人でいいっていうんだよ。いまから人を入れれば、チームワークが乱れると。が、水戸は反対していて、もう一人入れろと、しかもそれは絶対ブルーだっていうんだ」
「あー」そこまで話をきいてだいたい分かった。「それはきっと、あづち姫の考えが正当だと思いますよ。キナ子のやつはどうせ、戦隊は五人だから、五人にしろって話でしょ。四人ってのは、一度シリーズ打ち切りになった『ジョーカーなんとか隊』みたいで、縁起が悪いって、例の『おっきいお姉さん』的意見でしょ」
「うん、それはおれも理解しているつもりだ」神妙な顔で田島先生はうなずく。そして芝居っ気たっぷりに腕組みしてみせた。「だがな、赤穂。おまえはさ、やっぱ妖怪と戦う前に、五人で名乗りポーズ決めてみたくねえか?」
「あははははははは。それで名前に青がつく生徒探してましたか」士郎は乾いた笑声をあげると、机の上に放り出されていた生徒名簿をとりあげて、田島先生の頭を引っぱたいた。「まじめにやれよ」
小気味よい音が、職員室に響く。
「あのさ、赤穂。おれ、仮にも教師なんだけど」口を尖らせているが、どこか嬉し気。「で、おまえ、なんか用があったんじゃないの?」
「あ、そうだ。すみません。お願いがあるんですよ」士郎はそもそもの目的を思い出した。
「明日の朝七時くらいから、ちょっと武道場を使いたいんですけど、許可とかもらえます?」
「なに。自主練?」
「いや、まあ」士郎は口ごもる。「……ええ、そんなところです」
「ああ、いいよ」田島先生は快諾する。「七時なら鍵開いてるから、好きに使え。おれも朝早くに来ているから、なんかあったら、こっちに連絡すること」
「ありがとうございます」士郎は深く頭をさげた。
「おう」田島先生はにんまりと笑う。「なんかおれ、教師になった気分」
いやあんた、学生気分いいかげんに払拭しろよ、と士郎は心の中でつぶやいた。
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