48 秘密(エル視点)

「くそっ……! 始まったか……!!」


 僕の寝室に運ばれ、眠るサラを見たシス殿のただならぬ様子に、僕はその言葉の意味を問いかけた。


「シス殿、サラは一体どうしたのですか? 何が始まったのですか?」


「その質問に答える前にお聞きします。殿下とサラは今まで何処にいらっしゃったのですか?」


 シス殿に質問返しをされて一瞬悩んだけれど、ここは正直に話した方が良いと判断した僕は、庭園であった出来事をシス殿に説明した。

 ……そしてサラと想いが通じ合ったことも。


「やはりそうですか……。サラの奴、異常はないって言ってたくせに……。殿下、サラは<開花>が始まった状態だと思われます」


「<開花>……? それは一体……」


 初めて聞く言葉に戸惑う僕に、シス殿が説明してくれた内容は、アルムストレイム教が公にしていない事実の一つと、サラの秘密だった。


「生まれながらにして聖属性を持つ者とは違い、後天的に聖属性を発現させる者に起こる現象です。ただ、サラの場合はある種の<封印>が施されていたのですが、力の強さに<封印>の効力が切れ、急激に<開花>したため身体に負荷が掛かり、昏倒したのだと思われます」


 話の内容は僕の予想を遥かに超えていて、しかもサラが聖属性の人間だと言う事実まで判明する。


「……サラが……聖属性を……?」


「……はい。これはサラの出生にも関係しています。サラの身体の変化に気付かずこのようなことになり、殿下にはご迷惑をおかけしてしまいました。大変申し訳ありません」


 シス殿はそう言うと、僕に頭を下げて謝罪するので慌ててやめさせる。


「シス殿! どうか頭をお上げ下さい! 私はシス殿が悪いなどと全く思っておりません!」


 僕はシス殿に感謝こそすれ頭を下げて貰う謂れはないし、こんな事が他の人間に知られると、彼の信奉者に何を言われるかわからないので本気で遠慮願いたい。


「とりあえずサラは無事なのですね?」


「はい、しばらくの間は熱を出すと思いますが、生死に関わる問題ではありません。明日には目を覚ますでしょう」


 サラの命に別状がないと知り、張り詰めていた緊張が解けていく。


「では、詳しい話は明日にして、今日はもうお休みください。叙任の儀式や祝賀会でお疲れでしょう。サラは私が責任を持ってお預かりしますから」


 サラを心配するシス殿だったが、眠っているサラを今から離宮へ運ぶわけにはいかないと伝えると、僕の提案を受け入れてくれた。


「お気遣い有難うございます。では、明日改めてお伺い致します」


 シス殿を送り出し、呼び出していた王宮医に断りを入れたところで、僕はようやく一息つくことができた。


 僕は眠り続けるサラの横に腰掛け、その寝顔を眺めながら考える。


(普通の巫女見習いではないと思っていたけれど、まさかサラが聖属性だったとは……)


 シス殿から聞かされた時はまさか、と思ったけれど、彼女の性質を考えると、妙に納得出来ることがあったのも確かなのだ。


 サラが慈悲深くて優しい少女なのはもちろんだけれど、僕は彼女と一緒にいる内に、自分の中にある醜いものが、少しずつ解れていくのを何度も感じていた。

 ……だけど、聖属性が発現する前なのにそう感じていたのは、属性など関係がない、サラ自身が持つ性質だったのかもしれない。


 この世界に存在する聖女が全員サラのような存在なら、誰もが手に入れたいと渇望するはずだ。

 そう考えると、サラが連れ去られたあの時、属性の事がバレなくて本当に良かったと思う。それに、もし彼女が叙階を受けていたら、きっと取り返しがつかないことになっていただろう。


 サラが心配だったので、自分の部屋のソファーで彼女の目覚めを待ちたかったけれど、流石に同じ部屋で一晩過ごすのは外聞が悪いと考えた僕は、エリアナ侍女長を呼び、サラを任せると、来賓用の客室で休むことにする。


 そしてベッドに横になった僕は、改めてサラのことを考える。

 シス殿が言っていたサラに施されていた<封印>のこと、聖属性が彼女の出生に関わること……。


 きっとサラには、僕が想像もつかないような秘密がある。しかも聖属性が絡むとなると、必ずアルムストレイム教が介入してきて、サラを法国へ連れて行こうとしてくるだろう。


 だけど、ようやく思いが通じ合った彼女を僕は手放すつもりは全く無いし、命に替えてでも絶対に守り抜くつもりだ。


 ──僕はもう、サラがいない世界なんて考えられないし、考えたくもない。


 とにかく、明日になればシス殿からサラの話が聞けるのだ。その時に疑問は全て解けるだろう。


 僕は明日に備えて英気を養うべく、早々に眠りに付くことにした。




 * * * * * *




「では、ゆっくりお話を聞かせていただくとして、今お茶を用意させますので、こちらのソファーに掛けてしばらくお待ちください」


 翌朝、シス殿が騎士団に顔を出した後、王宮に来てくれたので、サラが眠る自室で話をしようと腰掛けて貰う。


 ちなみにサラは未だ眠ったままだ。熱は若干引いたようだけど、魔力が体に馴染むのにもう少し時間がかかるらしい。


 しばらくしてお茶が運ばれ、使用人達に席を外して貰った後、話が外部に漏れないように、念の為部屋中に結界を張っておく。


「……これは中々すごい結界ですね。魔力が完璧に遮断されています。やはり闇魔法は優れた属性なのですね」


 僕の魔法を見たシス殿が褒めてくれる。世界でも有数の実力者であるシス殿に褒められ、思わず照れてしまう。


「シス殿にお褒めいただけるとは……何だかくすぐったいですね。でも、アルムストレイム教では闇属性は忌み嫌われているのではないのですか?」


 現に僕は闇属性というだけで、神殿関係者から蔑まれていたのだ。


「闇属性が忌むべきものだと言われているのは、アルムストレイム教が行った情報操作です。闇属性は光属性と同じで、素晴らしい属性ですよ」


 シス殿の話を聞いて、僕は以前サラから聞かされた<原始の属性>という言葉を思い出す。


「僕もサラに教えられて初めて知ったのですが……<原始の属性>だそうですね。ならば、なぜアルムストレイム教はそんな情報操作を行ったのですか?」


「闇属性が一番貶めやすかったからです。人は<闇>を恐れる傾向にありますから」


「貶める……? 一体、どういう……?」


 どうしてアルムストレイム教が闇属性を貶めなければならなかったのか、僕には全く理由がわからない。


「それは属性の話になるのですが、御存知の通りこの世界には基本の四属性と、原初の属性である二属性が存在します」


 属性の話は誰でも知っていることだけれど、僕はシス殿の言葉を聞き漏らさないように、じっと耳を傾ける。


「そして希少な聖属性ですが、この聖属性をアルムストレイム教では<根源の属性>と呼んでいます。それは何故かというと、他の六つの属性は全て聖属性の派生だからです」


 この世界を作ったとされる至上神が『光あれ』と言われて光が生まれ、それと同時に闇も生まれた、というのがアルムストレイム教の聖典に書かれている内容だ。


 この時生まれた光と闇がそれぞれの属性を現すのだとしたら、聖属性は──……。


「人は神を真似て作られたと伝えられています。もし、神を真似たものが姿だけでなく、その能力も真似ていると考えてみて下さい」


 聖属性は古来より至上神の力が顕現されたものだと伝えられていた。僕はそれをただの比喩だと思っていたけれど。


「聖属性は正しく神の力だったんですね」


「はい。そして話は戻るのですが、聖属性は全ての属性の根源と言いましたよね? という事は、六つの属性を合わせるとどうなると思いますか?」


 僕はシス殿の言葉を聞いてはっとする。


「まさか、六つの属性を合わせると、聖属性に──?」


「全く同質のものとは違いますけどね。六つの属性を合わせたからといって、<治癒>が出来る訳ではありません。ですが、同じ効果を齎す現象があります。それが<浄化>なのです」


「……!!」


 シス殿の話に僕は驚愕する。<治癒>はともかく、<浄化>も聖属性の人間しか出来ないと思っていたからだ。


「聖属性の人間しか<浄化>出来ないと思われていた<穢れし者達>が、六つの属性を合わせて<浄化>されるのなら、もうアルムストレイム教を頼る必要がなくなりますから」


 六つの属性を持った六人が集まれば、世界中の国々で厄災と言われる<穢れし者達>を滅ぼせる──であれば、アルムストレイム教の権威はかなり落ちることになる。

 その理由は、<穢れし者達>を討ち滅ぼすために、今もなお世界中の国々はアルムストレイム教へ多大な資金援助と便宜を図っているからだ。


 <穢れし者達>の発生は国家存続の危機であり、その恐怖と驚異から逃れられる唯一の手段がアルムストレイム教が秘蔵する<聖女>や<聖人>と呼ばれる聖属性の人間と、聖属性が付与されている<聖水>や<聖宝>などだ。


 各国で発生する<穢れし者達>は、早く対処しないとどんどん力が巨大になり、対処が遅れると国が一つ滅んでしまう。国を守る為にはアルムストレイム教に頼るしか無いのが現状だ。


「だからアルムストレイム教は六つの属性が揃わないよう、嘘の情報を流し操作したのです。闇属性が忌み嫌われるように」


 アルムストレイム教にしか出来ない、普通であれば不可能だと思われていた<浄化>が本当は可能で、巧みに情報操作され秘匿されていたとなれば、世界中で非難されるのは必至だろう。


「信仰心が強い者ほど、自分が信じるものに盲目的になりますからね。だから神殿がそう主張すれば、人々は疑うことなく受け入れてしまうのです」


 神殿が人々の信仰心を利用し、自分達に都合が良いように思考を誘導しているとは。

 昔から神殿には良い印象は無かったけれど、まさかここまでしているとは思わなかった。



 * * * * * *



お読みいただき有難うございました!( ´ ▽ ` )ノ


アレ教の秘密(?)悪巧み(?)の一端に迫ってみました。


拙作にお☆様、♡やコメント本当に有難うございます!(∩´∀`)∩ワーイ


次のお話は

「49 出自(エル視点)」です。

引き続きアレ教が行った悪行とサラの出生が判明です。サラパパとサラママの正体やいかに!(バレバレ?)


次回もどうぞよろしくお願いします!(人∀・)

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