第59話 宿題発表
特別講座の宿題発表日。
なぜか博士科・専門科の教授達と学園長が教室の後ろに座り、発表を待ち望んでいる。
「では、年齢順だな。なぜか博士科5年目!」
通常3年間の博士科で現在5年目の先輩は、1番に指名され苦笑した。
全員が知っていることだが、強調しないでほしかった。と悲しそうに前へ出る。
彼は火属性。
自分が攻撃すると素材が傷んでしまうためチーム戦を選択した。
さすが博士科。説明がわかりやすい。
時々、教授達から「ほぉ」と感心する声が聞こえてきた。
順番に発表が続き、なかには「それ無理じゃない?」というような案もあったが、特に否定されることもなく、逆にアドバイスをもらいながら発表は続いた。
「では、次は騎士2人。どっちが誕生日が早いんだ?」
同じ学年は誕生日順だ。
茶髪の友人アルバートが先に席を立った。
彼は魔術は得意ではない。
土魔術が使えないわけではないが、圧倒的に剣の方が早く攻撃力が高い。
ドラゴンの逆鱗付近を一気に大きな剣で突く。
顔付近の細かい鱗は諦め、体の方の堅い鱗を手に入れるという作戦だった。
剣を横に振り下ろすと傷が増えてしまうので、とにかく突くという力業だ。
でも、彼ならできてしまいそうなところが怖い。
エドワードはアルバートがドラゴンを倒している場面を想像できてしまった。
次はエドワードだ。
エドワードが選んだのはクーガー。
足の速いネコ科の生物。
毛皮が高値だが、毛はそんなに長くはないので多少濡れても毛の油分で弾かれるという。
まずは氷魔術で足止めをし、動けなくなったクーガーの心臓を一気に貫くという作戦だった。
「それでは毛皮の価値が落ちるのでは?」
専門科の学生から質問があったが、エドワードは毛皮の切り開く部分であるお腹側だから問題ないと説明した。
クーガーのイラストを元に、剣の角度を手でやってみせると、「あぁ、なるほど」と納得する教授の声が聞こえた。
どこなら攻撃をしても良いか。
さすが騎士2人。
教授たちは魔術コースと騎士コースの違いを見たような気がした。
「では、最後」
中等科の子には難しい問題だっただろう。
教授たちは小さなリリアーナを見守った。
「まず、動物の足を氷で動けなくします」
あぁ、お兄ちゃんと一緒に考えたんだね。と暖かい雰囲気に部屋が包まれた。
「次に、青の魔道具で結界を作り魔術が外に出ないようにします」
「ちょっといいか? 青の魔道具とは?」
フレディリックが待ったをかけた。
「ウィンチェスタ侯爵が作った魔術を遮断する魔道具です」
一般的だと思っていたが違うのだろうか。
リリアーナはこの説明であっているのかわからず、わかる範囲で答えた。
ウィンチェスタの名に教授たちが目を見開く。
思い浮かぶのは天才だったノアールだ。
そしてその父であるウィンチェスタ魔道大臣が作った魔道具。
とても興味がある。
「結界とはなんだ?」
「えーっと、周りと遮断するので、その状態を、えーっと、そう呼びました」
ゲームでよくある結界です。とは言えず、回答にならなかった。
「魔道具4つで囲まれた範囲の全方位、上も含めてシールドを張る魔道具だとウィンチェスタ侯爵は言っていました。そのシールドが張られた状態を結界と名づけたのだと思います」
さすがにその回答ではマズいだろうとエドワードが助け舟をだす。
「全方位に!」
教授だけではなく博士科・専門科の生徒もざわざわする。
そんなにすごいの?
リリアーナは首をかしげた。
「次は結界ギリギリに四角く穴を掘って水を薄く入れます」
やっぱり穴を掘るんだ。
生徒達の間では、先日のドロドロ話が浮かんでしまう。
「穴の水を火で熱し、動物を蒸し焼きに。酸欠の動物は倒れるので、素材を回収できます」
淡々と告げられるリリアーナの案。
今までの誰とも一緒にならない不思議な案。30人目なのに。
教授たちが息をのんだ。
「それで、どの生物を選んだ?」
フレディリックがリリアーナに尋ねるとリリアーナは元気に答えた。
「全部です! どれでも大丈夫です。丸ごと蒸し焼きだから」
にこにこと答えるリリアーナに、エドワードは溜息をついた。
相変わらずおかしいことを平気で言う。
だが、リリアーナなら本当に実現できてしまうだろう。
土も火も水も1人で使えるのだから。
「そうか」
フレディリックは声をあげて笑い出した。
傷もつかないので、素材はなんでも取り放題だ。
だが、生物を丸ごと蒸し焼きにしようと思う令嬢はリリアーナだけだろう。
「妹ちゃん、怖ぇなぁ。蒸し焼きにされる」
アルバートも笑いをこらえている。
「穴を掘ったのはなぜ?」
博士科生徒から質問があった。
「動物に火が燃えうつらないためと、足りなかった時に水を補充しやすくするためです」
リリアーナはニコニコと答える。
「水と火を一緒に入れるだけで蒸し焼きになるのかな?」
今度は教授が質問してきた。
「水をお鍋で熱すると水蒸気が出ます。魔術も混ぜたら水蒸気になります」
サラリと回答するリリアーナだが、全ておかしい事に本人だけが気づいていない。
「鍋?」
侯爵令嬢だろう? 鍋を使うのか?
アルバートがエドワードの背中をバシバシ叩きながら笑っている。
「魔術を混ぜる?」
混ぜるとはどういう事か。教授達も生徒達も首を傾げた。
みんなの反応は当然だ。
エドワードは今日何度目かの溜息をついた。
「魔術は混ぜる事ができるんだ」
フレディリックの言葉に全員が驚いた。
先日演習場でリリアーナが実践したのを見たので、できることは知っている。
「殿下、それはどういう……」
教授がもっと詳しく! と教えを乞う。
「まだ確認中だ」
これ以上の詮索無用と話は打ち切られた。
「みんなの案はなかなか面白かった。俺なら、鼻と口を凍らせて息をできなくするけどな」
フレディリックがニヤリと笑う。
「あ」
そんな簡単な方法が。
仕掛けも道具も人数もいらない。
悔しいけれど、さすがだなぁ思ってしまった。
生徒にとっても教授にとっても有意義な時間を過ごせたと学園長の講評をもらい、宿題発表は無事に終了となった。
「アルバート、エドワード」
講義終了後、フレディリックが2人を呼び止めた。
2人とも卒業後に殿下の特殊部隊に入る手続きが完了したと告げられる。
「よろしくお願いします」
「お願いしますっ」
ぴっちりお辞儀をする2人。
「さぁ、楽しいことをたくさんするぞ!」
2人の肩をポンと叩き、フレディリックはニヤリと笑った。
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