太平の学園 ー 186
全ての人間と全ての人間とのおおよその距離は決められている。これは事実である。そう、それは事実なのである。
きひひィ。語り手は残念ながらその距離を意のままに
即ち、これは語り手にとっても
もどかしいでござる。もどかしいのでござる。なぜ未だそこに届かないのであろうか。たかが少年一匹、狼一匹である。この男は
きひひィ。
スペクトル・ヴィアンの方針が決まった教室に、卵の豪雨が降り始めた。そこで人間の一人一人は米粒の一つ一つに過ぎない!
巨大な、卵かけご飯の出来上がりだ!
げっきゃっきゃっ!
◇
「鴇田さん、一体どうしちまったんだよ」
「どうもしてないよ。ただ、恋愛に本気になっただけ」
「そんなわけないだろ。君は自己中と言いながら他人の思いに鈍感にはならない人だ」
「私の何を知ってるの? まだ大した仲でも無いのに」
「大した仲だと思ってるから言ってるんだよ」
「私は他人の思いなんて一度たりとも真に理解できたと思ったことはないよ。だから苦しいんじゃん」
「今の俺の気持ち分かる?」
「さあ」
「翡翠に謝ってきてよ」
「卵かけご飯パーティに誘えなかったことを?」
「分かってるだろ?」
「意味分かんない」
「悪いけど俺は君より翡翠を選ぶよ」
「……あっそ」
「君の思いには答えられない。君に言い寄られて、ようやく俺の本当の気持ちに気付いた」
「例えばそれをさ、旦那が奥さんに言ったとしたらどう? それ恐ろしい発言だと思わない? 世の中そんな簡単に絆を違えていいわけ?」
「俺たちは夫婦じゃないだろ」
「おっぱい揉みましたよね? あなた」
「おっぱいは揉んだ」
「それは夫婦とは言わないんですか?」
「めちゃくちゃ言いません」
「見解の相違だね。あなたは衝動に操られるモンスターだよ。首輪が必要だね」
「首輪なら翡翠がかけた。もうずっと前から」
「いい気持ちにならない? 私たち」
「そういうことをしたらいよいよ終わりだと思うんだ、俺は」
「見てよ、私の手に生卵ついてる」
「とっくに全身浴びてるだろ」
「舐めて? ベトベトだから」
「……は?」
「卵の味を確かめてよ」
「……スペクトル・ヴィアンをするなら卵のベトベトくらいなんとも思わない精神が必要だよ」
「なんとも思ってないよ。美味しいからお裾分けをしたいってそれだけ」
「……」
「これ無精卵だよ」
「だから何だよ」
「混ぜてあげなよ、あなたのパンスペルミアを」
「……」
「ほら」
「……ちょっ、俺まだ!」
「うわ……早すぎじゃない? そんな溜まってんだ」
「……」
「あれ……ちょっと待って? 地面がなんか蠢いてるよ」
「俺のやつに反応してる」
「これまさか……」
「そうだ……」
◇
卵かけご飯が、怪物と化した!!!!
猛き生命をそこに帯びたのだ!!!!
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