残365日のこおり。
@tonari0407
愛する彼女と別れるまで
第1話 カウントダウン開始 4月7日
これはある男達が心から幸せになるまでの365日の話である。
◇◇◇
20✕✕年4月7日、暗闇の中からそれは突然こおりそうたの前に現れた。
それは見た目は人の男だった。紺色の背広に青のストライプのネクタイ、年齢は20代位だろうか。顔に不適な笑みがなければ10代にも見えるかもしれない。こちらを馬鹿にしたような目でこおりを見つめていた。
「おはよう、こおりくん。今日はこおりくんに素敵なお知らせを伝えにきたよ」
男は口角を不自然上げて笑っているような表情をする。しかし、目が笑っておらず不気味なその顔にこおりは思わず鳥肌がたった。
「誰……ですか? 」
やっとのことで声を絞り出す。
「誰でもないけど、まぁ僕のことはリイトとでも呼んだらいいよ。そんなことより、これ見て! 」
リイトが指差した先に、ぱっとスクリーンが現れる。
【こおり そうた殿
20✕✕年 4月7日をもって、貴方の存在を消去することをお知らせいたします。消去後は戸籍等の貴方の存在を証明するもの、遺伝子や細胞等の生物としての物証、貴方に関する記憶は抹消されますのでご了承ください。準備期間として365日与えます。監視はさせていただきますが、余生を存分に楽しんでから消えてください。何か質問等ありましたら、連絡係の者に聞いてくださいますようお願いいたします。】
「なんだこれ? 消去? これって1年後」
スクリーンに記載された日付は1年後の今日の日付だった。
「存在を消去? そんなこと……出来るわけねーだろ! 」
どっきりか、嫌な夢か、なんにせよ出来る筈もないことだ。
「何のどっきり? 嫌がらせかよ。存在消去とか出来るわけないだろ。俺殺したって他の人の記憶はなくなんねーよ」
こおりはリイトを睨み付ける。
「出来ますよ。こおりくんの存在なんて小さすぎて消すまでもなく、いたかどうかもわからない位ですけど。ちゃんと消しますよ。ははっ!
あとは自然にさらさらーっと時間が穴を埋めてくれるんです。
海行ったことあります? 波打ち際に穴開けてもすぐに波がきて、さーっと元通りになるでしょ? あんな感じです。
こおりくんの身体とか遺伝子は抹消。他の人の記憶とかは、最初からいなかった感じになって、まぁ何か印象に残る思い出とかは、例えば一緒にどっか行って楽しかったとかは、ここ来たことある気がする位になります。
あとは、今のところないみたいですけど、例えば人殺しとかそういう罪を犯しちゃった場合は、適当な人がいればその人の罪になったり、原因不明になったりします。
正の遺産を残しても、負の遺産を残しても、世の中に満遍なく紛れて、他の人の利益になったり不利益になったりする感じですね。
まぁ、あんた消えちゃうんだからそんなこと関係ないけど。あとちょっと好きなようにすれば? 見とくからさ。楽しいことしてよ~」
リイトはにまにましながら、好き放題に捲し立てた。
敬語とため語が入り交じり、情緒不安定な上に言ってることが意味不明だ。消すなんてできっこない。
「意味わかんねーよ。消えるなんて信じられるかよ。そんなこといって、騙されて俺が好き勝手やって、1年後に破滅するのをみたいだけなんじゃねーの? 」
「信じなくてもいいですけど、信じて僕の助言きいておいた方が1年後後悔しないと思いますよ。
僕は親切な方だからこおりくんは当たりですよ。僕、こおりくんのことは何でも知ってるから、適切なアドバイスしてあげれるし、君のことは嫌いじゃないんだよね。どっちみち1年は一緒にいるし、仲良くしようよ? 」
こちらの様子を見て楽しんでいる。愉快で仕方がないと言った様子でリイトは話す。
「何でも? 例えば? 」
「君はこおりそうたくん、27歳の会社員。175センチの60キロ。
彼女の名前はあいりちゃん。21歳の大学生、149センチ42キロ。若くて可愛いよね!ロリ顔巨乳、いい趣味してるわ。
出身は……」
「あいり……いや、そんなことは調べれはわかるだろ! 」
こおりはつらつらと話すリイトを遮る。
「今まで一番後悔していることは、小学生の頃に、何も知らないで病気の人を馬鹿にしてしまって、その後その人が病気で亡くなったこと、だね。子どもってこわいね~」
リイトの視線がきつくなる。
「後悔してもその人は戻ってこないんじゃない? 謝る相手もいないし、しかも謝ったからって言っちゃった言葉は取り消せないよ」
胸がどくんと鼓動する。この事は誰にも言っていない。幼い日に何も考えずに言った一言、相手は名前も知らない他のクラスの生徒だった。ずっとずっと心の奥底に重くのし掛かり、後悔してもしきれない。
「なんで知ってんだ? 誰も知らないはず」
「いやだからデータでみてんのよ。君の心の中なんて何でもお見通しだよ。だからさ、仲良くしようよ。ある意味友達よりずっと近い存在になれるよ」
「……」
「どうせ消えちゃうんだから、楽しい1年にしよう! 」
にこにこと笑うリイトにこおりは何も言えなかった。
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