ぼくが勇者になれたのは、みんなのおかげです。

全3話の短編の、後編・結末の前までを使用しました。

念話のため、『』を使っています。



『魔族や神族、そして人間族。全ての種族に対して、今が1番、均衡が保たれている』


 どこか遠くを眺めるように、魔王がぽつぽつと話し出した。


『それぞれの種族の長が話し合い、このような形に収まった。魔族は負の感情、神族は正の感情を人間族から受け取る事によって、生き長らえる。そして人間族は寿命が短い。それ故に感情が豊かなのだろう。だが、感情を散らす事によって同族で争う事もある、哀しくも愛おしい存在だ』


 魔王から見た人間の印象が意外なもので、驚きしかなかった。でもそれ以上に気になる事があったから、ぼくは尋ねた。


『種族の長が話し合ってって、人間の王様も知ってるって事だよね?』

『そうだ。平和な世の中であればあるこそ、同族の争いが起こりやすいと、昔の人間族の王が嘆いてな。だから提案したのだ。『魔族が人を脅かし、神族が奇跡を起こし助ける』と』

『なんでそんな提案したの?』


 神族はまだしも、あえて憎まれ役を買って出た魔族の考えが理解できなくて、首を傾げた。


『先程も話したが、人間族の感情が必要だからだ。放っておいたら人間族の数がどんどん減り続けると危惧し、そのように契約を交わした。人間族が忌むべき存在へ負の感情を向け、その脅威が過ぎ去れば感謝の念を神族へ向ける。うまく循環しているだろう?』


 うまく、なのかな?


 どうにも納得できなくて、ぼくはつい、意見を伝えた。


『でもさ、それじゃ魔族は、その為だけに倒されてるの?』


 ぼくの言葉にぽかんとした顔を向けたと思ったら、魔王が優しく笑った。


『勇者は心優しいのだな。けれど心配は無用だ。人間族にけしかけているのは、人間族の負の感情から創り上げた魔物だ。魂などはない』

『え? そんな事してるの?』

『魔族とて永遠の命があるわけではない。わざわざ同族の命を散らす事などしない』

『じゃあさ、もしかして、魔物が強くなる原因って、ぼく達のせい?』


 その言葉に、魔王は困り顔で首を横に振った。


『誰のせいでもない。こればかりは仕方のない事だ。あまりに強い負の感情から創り出せば、やはり凶悪な魔物が生まれる。その場合はこちらで対処するが、大抵は倒せる実力のある人間族のそばに放つがな』


 そんな事まで配慮されていた事に、なんとも言えない気持ちになる。


『それって本当に、ぼく達の為になるのかな? ようはさ、ぼく達人間は、自分の感情と戦うのが1番なんじゃないの?』

『どうしてそう思う?』

『感情自体に良いも悪いもないと思うんだけど、使い方次第で良くも悪くもなるんだよ、きっと。だからさ、自分の負の感情の対処を知らないまま、それを魔族のせいにし続けるって、自分で解決してるわけじゃないよね? こんな事言いたくないけど、もし、魔族がいなくなっちゃったら、その時ぼく達人間は、本当に滅んでしまうんじゃないかな』


 不思議そうにぼくを見ていた魔王が、ようやく話しかけてくれた。


『では、勇者に問おう。どのようにするのが最善だと思う?』

『それは――』



ここからAIさんです。



少し考えて、ぼくは答えた。

『まず、魔族が悪者だって決めつけるのをやめる事じゃないかな。それから、自分が嫌うものを無理やり好きになる必要はないよ』

魔王はしばらくぼくを見つめた後、小さくため息をついた。

『やはり、お前の言う通りかもしれぬな』

『どういう意味?』

『勇者の言った事は正しいかもしれないという事だ』

『えっ!? そうなの?』

驚いたぼくの顔を見て、魔王が楽しげに笑う。

『ああ。だが残念ながら、もう遅いようだ。すでに、我ら魔族には、勇者と敵対する意思がない。それどころか、この世界にいる限り、互いに手を取り合える関係を築きたいとさえ思っているのだ』

『そっか……』

『だが、まだ時間はある。これからじっくりと話し合っていこうではないか』

『うん! ありがとう!』嬉しくなって、満面の笑顔を浮かべる。

すると魔王が、どこか遠くを見るような目になった。

『……勇者よ。もしも、我の考えが間違っていると言うのならば、いつでも殺してくれ』

『なんで?』

『それが、我が望みなのだ』

よく分からなくて、首を傾げる。

『よく分かんないけど、分かった。でもさ、殺すのって、すごく難しいんだよ? そんな事頼まないでね?』

『……ふ、そうだな』

どこか寂しそうに見える魔王が気になって、ぼくは尋ねた。

『ねえ、魔王は何が好き?』

『そうだな……』目を閉じて何かを考え始めたかと思ったら、魔王はこう答えた。

『海だ』

『うみ?』

『そうだ。特に夜空に浮かぶ月が水面に映る様は美しい。星々が散りばめられた海面が、まるで宝石箱のように煌めくのだ。いつか、その景色をお前にも見せてやりたいものだ』

魔王の言葉に胸の奥が温かくなっていく。

『じゃあ、ぼくがもっと強くなったら、一緒に見に行こうよ。約束だよ』

『……楽しみにしている』

ぼくが差し出した小指に、小さな手が絡まった。その感触を噛みしめるように握り返すと、魔王はまた、とても優しい顔で笑った。



以下、ソラノです。


この後ですね、なぜか勇者が全身の痛みと共に目が覚めるという展開へ。

長編が始まってしまいそうなので、カットさせていただきました(笑)


物語の雰囲気はそのままで、『』の使用もそのままなのはすごいなぁと思います。


あと、『まず、魔族が悪者だって決めつけるのをやめる事じゃないかな。それから、自分が嫌うものを無理やり好きになる必要はないよ』というセリフ。

AIさんからまさかの、と思いました。

こういう考えを導き出せるほどになっているんですね。


あとですね、魔王の海の表現が好きです。

勉強になりました。

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