夢幻の扉~field of dream~ ─番外編─
玲莱(れら)
君と僕~scar of the heart~
<第1章 僕とあいつ>
1.あこがれ
まだ幼稚園に入るか入らないかの頃だったと思う。
僕は朝から友達の家に遊びに行って、帰ったのが夕方だった。
その頃はいつも遊んでばかりで、よく泥んこになって怒られた。
近所の公園の池には鯉がたくさんいた。
昔から魚が大好きで、大きくなったら漁師になろうと思っていた。
「あれ……? だれもいない……?」
鍵は掛かっていなかったのに、家の中には誰もいなかった。
祖父母が早くに病気で死んだのは覚えている。
でもどうして両親がいないのかはわからなかった。
家中探したけどどこにもいなかった。
いつもは帰ったら用意されている晩御飯もその日はなかった。
「冬樹くーん……帰ってるー?」
玄関のほうから女の人の声が聞こえた。
僕の幼馴染、海輝の母親だった。
「おばちゃん……ぼくのおかあさんとおとうさんは?」
そう聞いた時、あいつの母親は一瞬僕から視線を外した。
「あ──お母さんとお父さんねぇ、用事があるからってさっき出かけて今日は帰れないんだって。帰るまでうちにいらっしゃい。海輝も待ってるから。ね?」
その言葉を素直に信じ、僕は海輝の家へ行った。
一緒にご飯を食べて、あいつと並んで寝かされた。
その時は海輝もただの子供で、僕の両親のことは何も知らないと言っていた。
翌朝、目が覚めると、海輝の部屋に僕の荷物が運び込まれていた。
海輝の母親は『いつ帰ってくるかわからないからねぇ』と言いながら朝食を作っていた。
それから何日経っても両親が戻る気配はなく、いつの間にか僕は葉緒家の一員になっていた。
何をするにも海輝と一緒で、一緒じゃないと嫌だった。
「冬樹、おまえ魚好きか?」
いつか水族館に行った時、海輝の父親が魚のおもちゃを買ってくれた。それがとても嬉しくて、僕はしばらくご機嫌だった。
小学校に入った頃、海輝はテレビゲームに夢中になった。
でも僕はゲームをするより魚を見ているほうが好きだった。
よく一人で池に行って魚を取って遊んでいた。
海輝もたまには僕と一緒に遊んでくれたし、あいつの両親も僕にすごく優しかった。
本当は家族じゃないとわかっているけど、僕にとっての両親はあの二人以外に誰もいなかった。
そんなうちに僕は実の両親に関する記憶を無意識に排除していた。
忘れることはなかったけど、どうでも良かった。
「かいきぃーまてぇー!」
小学校からの帰り道、僕はいつも海輝と一緒だった。
家までの道を、よく走って競争した。
でも僕より海輝の方が早かったから、僕はいつも後ろだった。
「あー、せんせぇー、かいきくんがわたしのエビフライとったー!」
給食の時間、よく海輝はクラスメイトの給食を横取りしていた。
「コラッ! そんなことしちゃダメでしょ!」
「いってー!」
もちろんすぐに先生が飛んで来て、いつもゲンコツを食らっていた。
それは給食の時間に限った事ではなく、休み時間でも授業中でも同じだった。
海輝は勉強が大嫌いで、よく近くの席の子にちょっかいを出して怒られていた。
でも海輝はただの悪戯小僧じゃなかった。
誰かが苛められているのを見た時、あいつは必ず被害者を助けに行った。
それが誰であろうと関係なかった。
単に正義感が強いだけなのか周りから高く評価されたいからなのかはわからない。
いつか二人で靴飛ばしをしていた時もそうだった。
「えいっ……あ……どこ行っちゃったんだろう……」
勢いをつけすぎて、僕は靴を片方見失った。
「ははは。こっちも飛ばしちゃえ。えいっ!」
やっぱり靴はぐんぐん遠くへ飛んで行き、やがて見えなくなった。
「ふゆき……どーやってかえるの?」
「だいじょうぶだって。くつしたはいて──」
「はいてないよ! ふゆきはだしだよ! おれさがしてくるからここにいて!」
僕の返事を待つ間もなく、海輝は走ってどこかへ消えた。
しばらくブランコの上で座っていたら、あいつは僕の靴を持って笑顔で帰ってきた。
そんな優しさが手伝ってか、あいつはいつも人気者だった。
悪戯小僧のくせに何故かみんなに頼られる、そんな海輝に僕は少し憧れていた。
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