優しい父と、わがままな母

遠藤良二

優しい父と、わがままな母

 僕は母が嫌い。あの人は性格が悪いから。意地が悪いし、人の悪口を言う。それが、本人の耳に入るので、自然とその人は母から離れていく。母がその人に電話をしてもつながらない。それに腹を立てる母。馬鹿じゃないのかと思う。自業自得だろう。  逆に父は性格が良い。優しいし、気が利く。人からも好かれる。母はそれを見て、「あんたは良いわね、人当たりが良くて。ワシなんか友達が減る一方よ。何でこうなるのかしら?」父は、 「お前はもっと相手の気持ちを考えて喋った方が良い。一方的に自分のことばかり喋るのは良くないぞ。相手の話も聞いてやらないと」 と言う。確かに父の言う通りだと思う。  そんな母でも父は決して見捨てようとしない。母に危害を加えようとする奴は相手が僕でも容赦しない。ああ、父さんはこんな母さんでも愛しているんだなぁと思う。父は何て良い人なんだ。父は僕が母を嫌っているのは知っている。  母が酔うと誰もがそうかもしれないが、気が大きくなって家族や友達に暴言を吐く。それで、呆れた友達はまた離れていく。今じゃ父と僕しか相手にする人はいないのではないか。それか、母の兄弟や親戚・いとこか。  でも、考えように寄っては母は「生きるのが下手」なのかもしれない。そう考えてみると、可哀想に思えてくる。  ある時、家に町ちょうから父と母に健康診断の郵便が届いた。父は母に、 「一緒に受けに行こう。長生きしたいからな」  と言うと母は、 「どんな検査をするの?」  不安気な様子で父に訊いていた。父は母の質問に答えた。 「胃カメラ、大腸の内視鏡検査、採血、体重測定、身長計測などだ」  すると母は、 「嫌よそんなの! 怖いじゃない。苦しそうだし」  とあっさり流した。 「大丈夫だって。ちょっと我慢するだけだから。一緒に長生きしよう」  母は険しい表情でこう言った。 「あんた独りで長生きすればいいじゃない」  さすがにこの言い方は父にも引っかかったらしく、 「よくそういうこと言えるな。なあ、お願いだから一緒に検査受けよう」  母は何かを思いついたのか、表情がパッと明るくなった。 「じゃあさ、検査受けたら好きなもの食べさせてよ」  父は苦笑いを浮かべている。 「良いよ。でも、検査に引っかかったらそうはいかないかもしれないぞ」  それを聞いて表情が一変した母は、 「それなら受けない! あたしは悪いとこないから大丈夫!!」  困り果てた父は、 「仕方ないな、おれ一人で受けて来るよ。でも、気が変わったら言ってくれ」  不敵な笑みを母は浮かべて、 「気は変わらないよ、ばーか」  完全に父の優しさに付け込んで馬鹿にしている。そういうところも嫌い。 「おれより早く死ぬなよ。寂しいから」  そう言うと、 「ギャハハハッ」  とデカい声を出して笑い出した。僕は、 「母さん、何で笑うの?」  母は僕を見ながら、 「だってそうじゃない。男の癖に情けない」  僕はカチンと来て、 「そういう言い方はないだろ!!」  怒鳴った。すると、 「嫌ねえ、怒鳴らないでよ! びっくりするじゃない」  母は死ぬまでこの性格なのだろうか。僕の手には負えない……。  周りから散々呆れられていて、母から離れていってしまった。僕と父と母は血縁関係にあるから関わりが切れることはない。あと母の兄妹なども関係は切れない。関係が切れない事に母は甘えているのだろうか? その辺がイマイチ分からない。いまさら厳しくしても、反発するだけだろうし。困ったもんだ。  こんな感じでこの家族は過ごしていくのだろう。僕もいずれ結婚して、子どもが出来れば母ももう少し性格が丸くなるだろう。そうなることを願うしかない。                                (終)

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優しい父と、わがままな母 遠藤良二 @endoryoji

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