夢の奴隷

@haruri00000

プロローグ


「とにかく暑いな。」

「今どきエアコンのない部屋なんてさすが田舎ね。」

「ここは避暑地だからね、例年そこまで暑くならないんだよ。まさか今年はここまで暑くなるとはね。」


風鈴が心地良く鳴っている中、清野姉弟のうなだれた会話に、叔父さんが苦笑いしながら答えた。


「姉ちゃんそろそろ出発しなくて良いの。船乗り遅れるぞ。」

「おじさんが車で送ってくれるからねー。」

「いや歩いて5分だろ歩いて行けよ、高野おじさん会社のことで忙しいんだからよ。」

「おじさんすみませーん。ありがとうございまーす。」

「はっは、いいんだよ涼くん。私も久々に2人に会えて嬉しいしね。そろそろ出るかい?」

「はい、お願いしまーす。」


久々に叔父さんの家に来ていた。最後に来たのは中3のおばあちゃんのお葬式だったか。もう会うのは8年ぶりくらいだ。

とはいえ弟の涼はとても気の合うおじさんによく会いに来ていた。


「これからもっと田舎の島に行くんだから、ここでこんなへばってたら死ぬんじゃねえの。」

「うるせえ。」


玄関で靴を履きながら弟に軽口を叩かれる。

今回は姉のあみかが用があり、行きたい島があった。その島へ行く船乗り場がちょうど叔父の住む街の近くだったので寄ったのだ。ついでに一泊して、社長でお金持ちな叔父さんにたらふくご馳走を振る舞ってもらっている。


外に出てみるとやはりもっと暑い。


「じゃあね〜涼〜。」

「おう。はるなさんによろしく頼むぞ。」

「あははは。もちろんよ〜。」


わざとらしく笑うと弟が怒った顔をして家の中に戻っていった。弟にとってはるなさんは憧れの人だ。今までも散々からかってきた。


「じゃあ行こうか。あみかちゃん。」

「はい。お願いしまーす!」


そこで私は目を覚ました。何でこんな記憶…。今さら。全てが始まってしまう前の最後の記憶だ。もう元の日常が帰ってくることはない。何でこんなことになってしまったのか。戻りたくても戻れない。


「大丈夫ですか。清野さん。」

ハッとして声の方を見ると見張り役の飯田さんが心配そうにこっちを見ていた。

「すみません。少し変な夢を見まして。」

「こんな状況なら無理もないですよね。」


ここにいる全員が死への恐怖に怯えていた。この中にいる正体不明の連続殺人犯を除いて。

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