第54話

「ま、魔法少女ですか?」


『はい、魔法少女です』


 パチンコの女神の口から飛び出した魔法少女という単語に戸惑いを隠せない一子、主に年齢的な意味で…


「あ、あのー、私もう少女って年齢じゃないんですけど…」


『それは存じております』


 一子の疑問に対して、パチンコの女神はそうキッパリと返答する。


「存じてっ、ます、よね。…そうですよね、神様なんですから。いや、良いんですよ。最初からわかってた事ですから…」


 自分で言っておきながらブーメラン宛らに心の内側を大きく抉られた高尾一子(27)だったが、何とか気を取り直して会話を再開する。


「だったらどうして私に魔法少女になって欲しい、みたいな話になるんですか?」


『貴女は以前、「CR魔法少女ミラクルなのか」で実写版のプレミアムカットインの仕事をやっていましたよね?』


「え?」


 CRというパチンコに馴染みがない人にはピンとこない単語に戸惑いを深める一子だったが、会話の流れから何とか自身の仕事履歴を思い出す事に成功する。

 因みにCRとはプリペイドカードに対応したパチンコ遊技機の種別を表すものである。


「…あっ!はい、やってましたね。完成する前にこの世界に来ちゃったのでどんな仕上がりになったかは知りませんけど」


「魔法少女ミラクルなのか」とは、現代社会の闇に潜む魔女と呼ばれる存在と数奇な運命によって魔法少女となったヒロイン奈乃華とその仲間の少女達の七日間に渡る戦いを描いたアニメ作品でその後劇場版やゲーム化もされた程の大人気作品だ。

 かつて一子は、そのアニメをモチーフにしたパチンコの台で激熱演出用の実写版コスプレカットインを担当していた。

 パチンコには時々そういう演出が盛り込まれる事があるのだ。


「ああ、あれね。インフィニットなのかコスは、中々良かったよね。出玉も悪くなかったし」


「タッちゃんが一時期滅茶苦茶打ってた印象あるわー。タッちゃん、元気かね」


「彼は元気でしょ。寧ろ、心配されるのはこっちなんじゃない?」


「だな。何かもう会えないかと思うと少ししんみりするな。…で、それがいちごちゃんを魔法少女になるのとどんな関係があるんですか?」


 佐野さんと川口くんはずっと連んできたパチンカス仲間に想いを馳せて少しだけしんみりしてしまったが、それは一旦横に置いておける程度には大人であった。


『彼女を貴方達お二人と同じようにこの世界でパチンコ・スロットを普及させる為の人員として迎え入れようと思います。そして彼女には実機内に映像コンテンツとして実際に登場するというアドバンテージを活かして貰い、広告塔として活動して貰いたいと思います』


「広告塔、ですか?」


 パチンコの女神が捲し立てるように一気に説明すると、一子は中々その説明を飲み込めないのか困惑してしまう。

 しかし、パチンコの女神は佐野さんと川口くんに対する時に見せる優しさは持ち合わせていないようで更に続けて説明を再開した。

 どうやら、パチンコの女神の中で明確な線引きのような物が存在しているようだ。


『もし魔法少女になって頂けるのであればそれに見合った能力を差し上げます。それを活かしてどのように自身の存在を世に知らしめ、それをパチンコ・スロットの普及に結びつけるのかは貴女にお任せすることになりますが、もしもお二人に課した目標の達成に貢献出来たと判断出来る活躍をした場合には貴女の願いも叶えて差し上げます。例えば、元の世界に戻りたいとか』


「元の世界に帰れるんですか!?」


 パチンコの女神がチラつかせたまさかの報酬に飛び付くように一子は声を荒げる。

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