第117話 何も言い返せない


 うーん、恐らくそうだろうなとは思っていたのだがここでもう一人参戦して来るとは思っていなかった。


 いや、違う。


 これはどう考えても莉音の気持ちを察しているにも関わらず目の前で姉である彩音と美咲が既に俺に告白をしており、その返事を今から返すと言った俺の責任である。


 少し考えれば『意中の相手が二人から告白され、更に今からその答えを伝えるという事は意中の相手の中での答えは既に出ており、その結果今から二人のどちらかを選ぶ可能性が極めて高いという事ならば、今この時を逃せば告白することすら出来なくなってしまう可能性も高いという事では?』と考えるのが普通であり、どう考えても莉音の前で二人に返事をする事を言ってしまった俺のミスでしかない。


 そして既に俺はその事を言ってしまい、それを聞いた莉音が俺に告白してきてしまっている以上『さっきのは冗談でした』などと言える訳もなく、さらにそれは先に告白してくれた二人に対してもかなり失礼な対応である為今さら撤回する事も出来ない。


「……そっか」

「う、うん……」


 そして顔を真っ赤にして俯く莉音。

 

 そのいつもと違う可愛らしい態度に思わず気持ちが揺らぎそうになるのだがそこはぐっと堪える。


 どうせいまさら俺に告白してきた異性が一人増えようが既に俺の答えは決まっているので同じことである。


 ただ俺の答えを三人へ告げる。 それだけである。


「裕也様……あの、少しよろしいでしょうか?」


 そんなことを考えていると美咲が何かに感付いたのかおずおずと手を挙げて俺へ質問をしても良いか確認をとってくる。


「どうした?」

「いえ、私の思い過ごしならば良いのですが、全員告白を断るおつもりなのかと思まして。 そして婚約者である彩音さんとも近い内に、高校を卒業した辺りで婚約解消して雲隠れしようとしてませんか? そうすれば彩音さんに一人に批判が来る事も無く西條グループも消えたのは裕也様ですので北条グループだった社員たちに負い目を感じていざこざも少なくなるとか考えてませんか?」

「ど、どうしてそう思ったんだ?」

「莉音さんが祐也様に告白をした時私たちの時とは違ってあまり狼狽えたりしていなかったので既に私達二人の告白を断ることは決まっていたからではと思い、そしてそこから裕也様ならば恐らくこんな事を考えているのでは? と思ったまでです。 間違ておりましたら申し訳ございません」


 何故ばれたのだろうか。 俺の作戦は完璧だったはず。


 最終的には大学を卒業してからとは思っていたのだが、それ以外は美咲の推理通りである。


 その事を美咲に告げると「私は裕也様の側仕えとして今まで一番近くで祐也様を見て来ましたから」と言われては何も言い返せない。 

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