第58話 これからはこれからはちゃんと
「どうした? 箸が進んで無いぞ? 口に合わないんだったら別の物を用意して貰うが?」
夕食時、未だに犬飼さんと話したダメージを引き摺っている私を見て心配してくれたのだろう。 西條が夕食が合わないんじゃないかと聞いて来る。
昨日までだと少なくともデリカシーが無い男だと思っていたのだろうけれどもと、今だとあえて核心を突かずに別の話題を振る事によって話しやすくしているのだろうというのが彼の棘のない、むしろ隠しきれていない心配げな雰囲気から伝わって来る。
結局私は婚約してからというもの西條の裏の顔を暴いてやると息巻いていたのだけれど、それは結局私の中の『そうであって欲しい』というのを西條に押し付けようとしていただけなのだと犬飼さんに気付かされてから見た西條は、まるで別人のように私の目に映り始めるのであった。
これからはちゃんと、祐也の事を見よう。
◆
「祐也さん……」
「あ? いつも『西條』と呼び捨てのお前がいきなり「祐也さん」だなんて気持ち悪いな」
「う、うるさいわね……そこまで言うなら別に──」
「悪い悪い。 喧嘩を売るつもりじゃなかったんだ。 それで、急にどうしたんだよ。 お前から俺に話しかけて来るなんて珍しいじゃねぇか」
「そ、それは……弁当っ! そう弁当をね……祐也さんの為に作ってきたの。 祐也さんはいつも学食でしょう? ……嫌だったかしら……? 嫌だったのならば別に無理に食べてもらわなくてもいいから」
昨日の夕食時からなんだか彩音の雰囲気が変わった気がする。 具体的にどこがどう変わったのかと言われると分からないのだが兎に角、何が原因か分からないのだが何かが変わったのは確かである。
いや、その唯一変わったと思える雰囲気が変わりすぎなのだ。 気づかない方がおかしいくらいに別人の
その結果が今目の前の彩音なのだろうが、一体何があればあの彩音が昼休みに俺に顔を赤らめながら俺に弁当を渡そうとするのだろうか。
なぜそう思ったのか分からないのだが美咲がこの不可解な原因を知ってそうなのでとりあえず犬飼に目線で『何か知っているか』と伝えてみるも。帰ってきた目線は『何も知りません』という内容であった。
「……いや、嫌じゃない。 しかし
流石に人が俺の為に作ってくれたお弁当を、その人自身に要らないと突き返す度胸もない上に、指に巻かれまくっている絆創膏を見て受け取らないという選択肢は無いに等しい。
というかそこまでゲスにはなりきれない。
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