第51話 雌ゴリラ



 朝、行儀は悪いとは思うものの朝食を食べながら新聞を見ると一面で昨日の事が書かれていた。


 昔襲って人生を奪った女性相手に、逆に自分の人生を奪われる事になるとはまるで良くできた昔話を読んでいるような気分になる。


 因果応報とはよく言ったものだな。


「しかしながら、重症とはいえ刃渡り十八センチの包丁で腹と背中二箇所刺されてまだ死んでないとは運が良いのか、これからの事を考えると運が悪いのか」

「私はどっちでも構いませんけどね。 むしろこれから更に祐也様の側仕えとして誇りを持って働けるようになったと言う点では彼には感謝しないとですね」

「煽ても何も出ないぞ美咲?」


 俺の独り言を聞いていたのか美咲が今回の件で更に俺の側仕えという仕事に誇りを持てるようになったと嬉しい事を言ってくるのでとりあえず頭を撫でてあげると、猫のように嬉しそうに目を細めながら頭を俺の方へ『もっと撫でて』と言わんばかりに近づけてくる。


 可愛いやつめ。


 今回の件で美咲の俺にたいする忠誠心や信頼度が高まったのならば、わざわざ苦労してアイツを表の世界から消し去った甲斐があったと言う事なのだろう。


 後思う事があるとするのならば、何故か未だに俺の家で寝泊まりをして、俺の向かい側で朝食を食べている彩音さえいなければ最高の朝であっただろう。


「ふん、普段新聞なんか読まない癖に今日に限って新聞を読んじゃって。 アンタそもそも何もやってないじゃないのよ。 やった事と言えば校舎裏でアイツを虐めてたくらいでしょうに。 それにアイツから私を守ってくれた犬飼さんの方がよっぽど役に立ったわよ。 それに今回の事件はアンタじゃなくて被害者女性達が団結してSNSなどを駆使して情報を発信した結果じゃないのよ。 何自分の手柄のような態度で新聞を読んでんだか。 恥ずかしくないの? 後犬飼さんもこんな奴に騙されちゃダメよ。 何かされたら我慢しないで直ぐに私の所に言いに来るのよ?」

「……それはそうと彩音はいつまでここで泊まるつもりなんだ? 俺の事がそんなに嫌いならば別にわざわざ毎回泊まっていかなくても良いんだぜ? そっちの方が精神的にもお互いに良いと思うんだが?」

「む、むしろ祐也様ならば妾になっても構いませんっ!」


 美咲が隣で何か言っていたようなのだが、突っ込むとややこしくなるのでそこはあえてハーレム系主人公のように気づかないフリをしてそのまま彩音に話しかける。


「お前の家族も心配してんじゃないのか? 流石にそろそろ一度は帰った方が良いと俺は思うんだが」

「アンタの考えることはお見通しよ。 本当に分かりやすいんだから。 どうせ私が居なくなった瞬間に犬飼さんを襲うつもりなんでしょうっ? そうはいかないわよっ!」

「えっ!? そうなんですかっ!? 祐也様っ!! なんなら今日は学校を休んで、この雌ゴリラが登校している間に私を襲いますかっ!?」

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