第31話 地雷原
「私は西條祐也様に嫁いだ身であり、そのお陰で家族は路頭に迷う事も無くなりました。 その、私たち家族を救って下さった方に対しての──」
「そんな取って付けた様な建前などどうでも良い。 一体お前は何を企んでいる?」
俺の事が嫌いであり、見下し、嫌悪し、憎んでいる彩音がこうして出迎えるという時点で何か企んでいるとしか思えない。
そもそも同じ学園、同じ学年で同じクラスである以上どう足掻いても下校時間は同じである。
その俺よりも早く帰り着くという事はそれだけ労力を注いだ事になる。
きっと終わりの号令が担任により告げられた瞬間から急いで俺の家にまで来たのだろう。
しかも普段から車通学である為、彩音もわざわざ車を用意させていた事が窺える。
腐っても北条グループの令嬢という事なのだろうが、何がそこまで彩音を動かしているのか。
俺の知らぬ間に新たな死亡フラグが立ってしまい、その結果が今の現状なのかもしれないと思うと背中から大量の冷や汗が止まらなくなる。
まさか、彩音の胸を揉んだからか?
今日一日は朝の事件以降彩音にも圭介にもちょっかいはかけていないので可能性があるとすればそれしか考えられない。
いやだが、エロゲではそれ以上の事をしているのだ。
その事と比べると胸を揉まれた『くらいで』と思ってしまう。
これではまるで前の世界で勤めていた、時代に付いていけず未だにセクハラパワハラをして、指摘されても何が問題か分かっていない定年間近の上司そのものではないか。
どうする? 今一度しっかりと謝った方が良いのだろうか? とも思うものの今さら謝った所で胸を揉んだ事実は変わらない上に、西城裕也の取る行動としては余りにも不自然過ぎる為彩音に不信に思われる可能性もある。
そして俺がとる行動は『だから何が悪い』で後は知らぬ存ぜぬで切りぬけた後、彩音には必要最低限近づかない。
これが正解だろう。 恐らく。 きっと。 多分。
そもそも他人の、それも異性ともなるとその思考や感情を完璧に読み取る事など不可能に近い。
これはもう取り扱い要注意の劇物として考えるべきで、刺激しない、知識も無いのにつつかない触らない、対処法が分からなければそっとしておくのが正解であろう。
「何か企んでいると言われましても……私は西城裕也様の婚約者ですので、それに見合った行動をと思い──」
「……ならば明日以降出迎える必要はない。 あと、婚約者だからと変に気を遣う必要も無いし、家族を助けて貰ったなどという負い目も恩も感じる必要も無い。 だから恩返しや義理立てなどする必要も無い。 それに、嫌いな相手にわざわざ無理に接する必要もないし、迷惑だ」
そして俺は彩音の言葉を遮るように割り込むと、これ幸いと『胸揉みの件』は知らぬ存ぜぬと一切触れず無かった体で話を半ば強引に進め、もう話は終わりだとばかりに『胸揉み』の話題を出される前に彩音の横を通り過ぎて
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます