最終話
「ここは……」
意識が戻ってきた俺の目に一番に飛び込んできたのは真っ白な天井だった。
ベッドの上にいる事や辺りを見渡してみた感じ、恐らくここは保健室なのだろう。
「水神君。起きたんだ」
声のした方向を見ると、そこには七海さんの姿があった。
一体どのくらい気を失っていたのか気になり始めた俺はボッーとした頭で七海さんに時間を尋ねる。
「……今何時になってる? ひょっとしてもう1限目は終わった?」
「残念ながらもうお昼休みの時間だよ」
「えっ、もうそんな時間なのか!?」
どうやら俺が想像していた以上に長い時間が経っていたらしい。
「やばい、早く教室に戻らないと……」
「あっ、まだ起きちゃだめだよ。しばらく安静にしろって養護教諭の先生も言ってたから」
「でも1週間も休んだばかりだし、これ以上休むと授業について行けなくなるから」
俺は七海さんの静止を振り切って立ち上がろうとするが、体に力が入らずベッドに倒れてしまう。
「ほら、言わんこっちゃない。勉強は私が教えてあげるから」
「……七海さんは雨宮と付き合ってるんだからそれはまずいだろ」
勉強を七海さんから教えてもらえると聞いて舞い上がりそうになる俺だったが、雨宮と付き合っている事を思い出してそう答えた。
「その事なんだけど、全部水神君の勘違いだよ」
「……はっ!?」
七海さんは全部勘違いと言ったが、どういう意味か全く理解できず俺は困惑する。
「だから私は光とは付き合ってないって事」
「だけど学校中の噂になってたじゃん。付き合ってないのに噂になんてなるのか?」
俺は疑問に思った事をそう口にすると七海さんはゆっくりと口を開く。
「それは光が学校中に勝手に広めた全くの嘘で、全部出鱈目だよ。以前告白されたのを断ったらその腹いせに勝手な噂を広められたおかげで私もめちゃくちゃ迷惑したんだから」
「それって何か証拠はあるのか? とてもじゃないけど信じられないんだけど」
説明を聞いてもまだ納得出来なかった俺がそう尋ねると夏海さんはポケットからスマホを取り出してチャットアプリのトーク履歴を見せてくる。
「ほら、これ見てよ。こんな酷い会話をしてるのに付き合ってると思う?」
見せられたチャットアプリのトーク履歴には七海さんが勝手な噂を広めた雨宮を酷く罵倒するような内容が書かれており、挙げ句の果てにブロックまでしていた。
「これで信じてもらえたかな?」
「うん、こんなのを見せられたら信じるしかないよ」
こんな会話をしていて付き合っていると信じる人間はこの世に誰もいないくらい酷いトーク履歴だったので信じざるを得ない。
「良かった、ずっと勘違いされてたみたいだから誤解が解けて良かったよ」
そう話す七海さんは誤解が解けて安心したような表情をしている。
「あっ、それと水神君の靴箱にゴミを入れたり、机を隠してたりした犯人の正体は光だったんだけど、私が証拠を見つけて先生に報告したら悪質って事で退学処分になるらしいから安心してね」
「えっ!?」
雨宮から嫌がらせをされる心当たりが全く無かった俺はそう驚きの声をあげた。
「それは多分私のせいだから心当たりが無いのは仕方ないよ」
「……どういう事だ?」
「実は光からの告白を断る時に好きな人がいるって言って断ってたの。それでしつこく相手の名前を聞かれたから水神君って答えちゃった」
なるほど、という事は俺に非通知から電話をかけてきたり迷惑メールを送ってきていたのも雨宮の仕業に違いない。
とにかくこれで何週間にもわたって続いていた嫌がらせから解放されたわけだが、ここで新たな疑問が湧いてくる。
「なんで雨宮に好きな相手が俺って答えたんだ?」
「それは水神君の事が本当に好きだからだよ」
顔を赤らめてそう話す七海さんの言葉に俺は自分の耳を疑った。
「今なんて言った!?」
「だから、私は水神慎二君の事が好きって言ったの」
なんと俺は生まれて初めて、しかも好きな女の子から告白をされたようだ。
だが昔からが人よりも警戒心が強い俺は七海さんから告白されても信じられない気持ちの方が正直強かった。
「どうして……?」
「だって水神君は小学5年生の時にクラスでいじめられていた私を助けてくれたじゃない」
「……ひょっとして七海さんって昔は眼鏡をかけてた?」
小学5年生のいじめと聞いて、眼鏡をかけたおさげの女子を助けた事がある事を思い出す。
垢抜けていてお洒落な今の七海さんとはだいぶ印象が違うが、よくよく思い出してみれば確かにあの子と顔が似ている気がする。
「やっと私の事を思い出してくれたんだね、
やはりあの時助けた女の子が七海さんだったらしい。
「まさかあの時の女の子が七海さんだったなんて思いもしなかったよ」
「私は同じクラスになってひと目見た時から慎二君だって気付いてたよ」
七海さんは今まで見たこともないくらい綺麗な笑顔でそう話した。
「それで私からの告白の返事を聞かせてもらってもいいかな」
「はっきり言ってぼっちの俺と人気者の七海さんじゃ全然釣り合わないと思う。でもそんな俺で良ければ付き合って欲しい」
「ふふっ、よろしくね」
こうして俺は高校に入ってからずっと片思いしていた七海さんと付き合う事になった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ようやく小学5年生のころからずっと大好きだった慎二君と付き合えるようになって私は最高の気分になっている。
前々から徐々に距離を縮めていき、もう少しで慎二君から告白して貰えそうという時に光と付き合い始めたという噂が学校に流れ始め、冷たい態度を取られるようになった時は本気で発狂しそうになったがなんとかなって本当に良かった。
私を避けて話を全然聞いてくれなくなった慎二君を振り向かせるためにかなり強引な手段を取る必要もあったが、目論見通り振り向いてくれたのだから結果オーライだろう。
「電話の件もメールの件も勝手に光が犯人って勘違いしてくれて助かったよ」
実は非通知の無言電話と迷惑メールを慎二君に送りつけてたのは光では無く全部私の仕業である。
冷たい態度を取った罰という意味もあったが、一番の目的は慎二君の精神的を徹底的に追い詰める事だった。
慎二君の靴箱にゴミを詰めたり机を隠したりしたのも、私が光に指示を出してやらせた事である。
なぜそんな事をしたかと言えば、精神的に追い込んだところで私から告白すれば確実にOKして貰えると思ったからだ。
ちなみに光は最初嫌がっていたが、持っていた弱みをいくつかちらつかせたところ快く協力してくれた。
後は、光が犯人であると先生に証拠付きで密告し学校からも排除できたのだから鬱陶しい男もいなくなってくれて万々歳だろう。
光は偽の噂を広めて私と慎二君の関係をぶち壊そうとしたのだから退学処分になって清々した。
むしろ私の邪魔をして退学処分くらいで済ませてあげたのだから感謝してほしいくらいだ。
だって、もし慎二君と私の関係が修復できなかった時には光の命は無くなっていたのだから。
その場合は慎二君も殺した後に私も後を追って天国で結ばれる予定だったが、そうならなくて本当に良かった。
「慎二君、もう絶対に逃がさないんだから」
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