第2話
七海さんに彼氏ができ、俺が深い絶望の淵に突き落とされてから今日で2週間となる。
最初は何度も話しかけてこようとしていた七海さんだったが、俺が最低限の冷たい対応を取り続けているうちに話しかけてこなくなっていた。
最近七海さんの雰囲気が暗くなってきているのが気になるが、俺とは違って友人に恵まれていて恋人までいるのだから心配しなくてもすぐに以前の明るい姿に戻るはずだ。
そんな事を考えながら夜自室で課題をしていると突然机の端っこに置いてあったスマホが振動を始め着信音が鳴り響く。
スマホの画面を確認すると非通知からかかってきており、相手が誰なのかは分からない。
出るべきか、出ないべきかで少し迷った俺だったが勇気を出して出る事にする。
「はい、水神ですが」
「……」
スマホに向かってそう声をかける俺だったが、相手からの反応は一切なく無言だった。
「……あのー、俺の声って聞こえてますか? もしもし?」
話しかけても一向に返事が返ってこないため間違い電話と判断した俺は電話を切る。
「間違い電話かな? それにしてもこんな遅い時間に一体どこの誰だったんだろう」
スマホの画面を見ながらそんな事をつぶやいていると再び非通知から着信がかかってきた。
どうせまた間違い電話だと思って無視する俺だったが、いつまで経ってもコール音が鳴り止まない。
もしかしたら今度はちゃんとした用件の電話だと思った俺は意を決して電話に出る事にした。
「はい、水神ですが」
「……」
しかし、先ほどと同じくまた無言電話であり、電話の向こうからは何の反応も返ってこない。
「おい、誰だよ。何も用がないなら切るぞ」
何を話しても反応が返ってこない事を悟った俺は、一方的にそう言い残すと電話を切った。
結構強い口調で話したためもう二度と電話して来ないだろうと考えていた俺だったが、その考えが甘い事にすぐ気付く。
なんと1分もしないうちにまだ非通知で電話がかかってきたのだ。
今度は完全に無視すると決め込んだ俺は着信音が鳴り響くスマホを放置したまま課題を進め始める。
しばらくして呼び出しコールの限界が来たのか着信音は一旦ストップするが、すぐにまた非通知の電話が鳴り響く。
「……気持ち悪い、一体誰がこんな事をしてるんだよ」
何度も何度も非通知でかかってくる着信音を聞いているうちにだんだん気味が悪くなってきた俺はスマホの電源を切る事にした。
「よし、これでもう大丈夫だろう」
スマホが使えなくなるのは不便だが気味の悪い非通知という文字を見なくて済むのであれば全然我慢できるレベルだ。
1時間ほどして今日の課題を済ませた俺は寝る前にそろそろ大丈夫だろうと思いスマホの電源を入れるわけだが、すぐに後悔する事になる。
電源が入った瞬間にまた非通知の電話がかかってきたのだ。
「ひっ、何だよこれ……」
俺は画面に表示されていた拒否を押して電話を強制的に終了させると、そこには信じられないような光景が目に飛び込んできた。
「えっ、着信履歴100件超えてるんだけど!?」
どうやら非通知の電話をかけてきている相手は俺がスマホの電源を切っていた1時間の間にもひたすら電話をかけてきていたらしい。
「マジで何なんだよ……」
そんな事をつぶやいているとまた非通知から電話がかかってきてきたため、正直頭がおかしくなりそうだ。
精神的に疲れさせられた俺はもう一度スマホの電源を切るとさっさと寝る事にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝目を覚ました俺が恐る恐るスマホの電源を入れると、案の定おびただしい数の着信履歴が表示される。
今の時間に着信がかかってこない事だけは不幸中の幸いだったが、着信履歴を見ているとそれだけで気分が悪くなりそうだった。
「朝からこんなのを見せられると食欲が全く湧かないな……」
結局、俺はダイニングテーブルに用意されていた朝食を一口も食べずに学校へと向かい始める。
そして学校に着くといつも通り教室の自分の席に行くと机に突っ伏す。
それからしばらくして聞き覚えのある声が教室内に響き渡る。
「みんな、おはよう」
「あっ、美玖おはよう。最近暗くて心配だったけど今日は機嫌良さそうだね」
「あっ、やっぱり分かる? 実は昨日の夜良いことがあってね」
どうやら今日は機嫌がいいらしいが、昨晩七海さんに一体何かあったのだろうか。
思わず顔を上げて七海さんの方を見つめてしまうと、そんな様子に気付いたのか彼女は俺の方を見て微笑んだ。
一瞬その姿に見惚れてしまう俺だったが、すぐに深い絶望感に襲われてしまう。
そうだ、七海さんの機嫌がいい理由なんてどう考えても彼氏である雨宮が関係しているに違いない。
ちょっと前まで喧嘩をしていたようだったが、どうせ仲直りしてさらに距離が縮まったに決まっている。
「……はぁ、鬱だ」
七海さんが雨宮と一緒にデートしている姿を想像して辛くなった俺は一言そうつぶやくと教室から早足で出ていき、1時間目の開始時間ギリギリになるまで教室には戻らなかった。
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