3-3 ギャル!
それからというもの、私たち三人は毎日のように放課後に買い物に行くようになった。例のキャピ子たちには、あの一件があって以来遭遇してはいないけど、たぶん見かけても話しかけてこないんじゃないかと思う。
アクセサリーショップのほかにも、オシャレな雑貨屋など、私たちは商店街にあるいろんなお店を開拓していった。高校生のお財布事情的に、ウィンドウショッピングするだけという日も多かったけど、それでもただ一緒に買い物に行くという、そのことだけで私は楽しかった。
そんなある日の放課後、有来さんがふとつぶやく。
「なんていうかさー、ちょっとイケてるアクセつけたぐらいじゃ、あんまり雰囲気変わらないよねー」
「そうだねー、何かもっと劇的な変化が欲しいところだよねー」
安達さんも有来さんと同様、現状に少し物足りなさを感じている様子だった。
そもそもこの学校は割と自由な校風なので、多少派手なアクセサリーをつけていても注意されることはないのだが、それゆえに、ある程度のオシャレをしている人も少なくない。たしかに、私たちはネックレスやブレスレットをつけるようにはなったものの、正直あまり目立たないし、周りの人はほとんど気づいてすらいないだろう。
そこで私は、思いきって二人に提案してみることにした。
「やっぱりさ、見た目を派手にするためには、メイクは必要じゃない?」
「私もそれは思ってた。けど、どうすればいいのか、よくわかんないんだよね」
一応確認しあってみたが、私たちは三人ともメイクをしたことなどなかった。そもそも、クラスメイトでメイクをして学校に来ている人はそれほど多くはなさそうだけど、イケてるグループの人たちはたいていメイクをしている気がする。だから私も、イケてる女子高生になるためには、メイクは避けては通れない道だと感じていた。
「とりあえず、見に行ってみる? 化粧品とか」
そんな軽いノリで、私たちはいつもの商店街ではなく、少し離れたデパートの化粧品売り場へと足を運ぶことにした。
初めて足を踏み入れたその場所は、独特のフレグランスな香り、色とりどりの商品、清廉とした人々で満たされており、まさに大人の領域という感じだった。普段慣れ親しんだ商店街とは全く違う、まるで外国に来たような感覚だ。
「けっこういろんな種類があるんだね」
「うん、何が何だかって感じだけどね」
これまでメイクとは縁のなかった私たちは、整然と並べられたカラフルな化粧品に、ただただ圧倒されていた。
「何かお探しですか?」
すると、おどおどしている私たちに対して、親切な販売員のお姉さんが声をかけてきた。さすがは化粧品売り場のお姉さんだけあって、メイク術に長けているせいか、女優さんと見紛うほどの美人さだ。
そんな美人な大人の女性に急に話しかけられて、しばらく三人は怯んでいたが、安達さんがなんとか口を開く。
「あの、私たちメイクに興味があって、ちょっとやってみようかなって感じなんですけど……」
「そうなんですね。最近は、メイクに興味を持って本格的にやってみようっていう学生さんも多いんですよ。ちなみに、こんなメイクがやってみたい、っていうイメージはありますか?」
「えっと……」
そこまで具体的に考えていなかったのか、安達さんは言葉に詰まってしまった。有来さんもどう答えていいかわからず、戸惑っているようだ。
そんな中、何か言わなければと思った私は、とっさに頭に浮かんだ言葉を口にする。
「ギャル!」
その瞬間、あたりが静まり返ったような気がして、慌てて私は言葉を繋ぐ。
「いや……派手な感じといえば、ギャルかなあ……と思って」
すると、安達さんと有来さんも口々に続けた。
「いいね、ギャルメイク! 私もああいうの、やってみたいと思ってたんだー」
「私も! どう説明すればいいのかなあと思ってたけど、まさにギャルって感じのやつだよね」
それを聞いていた販売員のお姉さんは、にっこりと笑みを浮かべた。
「いいですね。じゃあ、こういうのはいかがでしょう?」
そしてお姉さんは、おすすめの手頃な商品やメイクの基本的なやり方などを、私たちに丁寧に教えてくれた。本人が美人なせいか、教えてくれるメイク術や勧めてくれる商品のひとつひとつに妙に説得力を感じた。
……やっぱり美人って得だよね。
素人の私たちは、勧められるがままに商品を購入し、さっそくその日からメイクの練習を始めるのだった。
「けっこう難しいね」
「でも、だいぶ様になってきたんじゃない?」
私たち三人は、連日安達さんの家に集まってメイクの練習をした。いろんなメイクの方法がネット上にゴロゴロ転がっていたので、私たちはあらゆる方法を片っ端から試していった。
お手ごろな値段の化粧品を買っているとはいえ、それなりにお金はかかる。ひたすらメイクの練習をしているので、遊ぶ時間もない。それでも私たちは、メイクの練習に打ち込んだ。
それもこれも、すべてはギャルになるため、華やかな高校生活を送るための投資だ。努力無くして、キラキラスクールライフはつかめないんだということを、私たちは身をもって実感する。
きっとタイムトリップ前の二人も、こんなふうに陰ながら頑張ってギャルの自分たちを作り上げていったんだろうなあ。
以前の二人に尊敬の念を抱くとともに、今の私はそんな二人と同じ時間を過ごし、想いを共有できているんだということが、ちょっと嬉しかった。
練習を続けているうちに、最初はぎこちなかったメイクもだんだん上達していき、それなりの見た目にはなっていた。そして、一緒にメイクを練習していく中で、同じギャルメイクといっても、三人の理想の姿がそれぞれ異なることがわかってきた。
安達さんは、少し黒めに塗った肌に、髪はがっつりウェーブ、まつ毛はバサバサという、全体的に濃い目の、いわゆる黒ギャルスタイル。
一方の有来さんは、カラコンを入れた目や強調した涙袋、軽く巻いた毛先と、一見ナチュラルなようで、その実あざと可愛い、ゆるふわ系ギャルといった感じだ。
ちなみに私はというと、端的に表現するなら白ギャルだ。白く塗った肌は、まさにミルク色。まるで牛乳を纏ったかのようで、メイクをするだけで謎の万能感が湧いてくる気がする。
正直、メイクがこんなに楽しいものだとは思っていなかった。私だけじゃなく、安達さんも有来さんも、メイクの魅力に完全に取りつかれていた。
そんな三人だが、まだ学校にメイクをして行ったことは一度もない。さすがに、ここまでガッツリとギャルメイクをしている人はクラスにもいなかったので、ちょっと躊躇している部分があったからだ。
でも、イケてる高校生活を送るには、やっぱりメイクをして学校に行かなければ意味がない。私は思いきって、二人に提案してみることにした。
「ねえ、そろそろ学校にもメイクして行ってみるっていうのは、どうかな?」
「そうだねー、それなりにメイクできるようになってきたし、そろそろ学校でギャルデビューしてみる?」
安達さんはノリノリだったが、対して慎重派の有来さんがつぶやく。
「でも、いきなりこんな派手な見た目だと、周りの人に引かれないかな?」
「たしかに、それはあるかもね……」
二人ともメイクをして学校に行ってみたい気持ちはあるものの、やはり不安もあるようだ。タイムトリップ前の二人は、何も考えずにあんな突飛なメイクをして学校に来たのかと思っていたけど、やっぱりいろいろ葛藤はあるよね。
そんな彼女たちの背中を押すように、私は力強く二人を見つめる。
「大丈夫だよ、周りがどう思ったとしても、これが私たちじゃん」
以前、この二人が突然学校にギャルメイクをして来たときも、クラスメイトは案外すんなり受け入れていたし、先生からも特に注意されている様子はなかった。それを知っているから、私は自信を持って大丈夫だと言えるのだ。
「そうだよね、三人一緒なら怖いものなんてないっしょ!」
「うん、私たちイケてる高校生活を送るためにメイク頑張ってきたんだもんね。よーし、じゃあ明日はこのギャル姿で、学校に乗り込んじゃいますか!」
こうして、私たち三人はついに、ギャルメイクで高校デビューすることを決めた。
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