真夏の真昼。

鈴木すず

-1- 海岸にて

 安西真夏は、羽織っていた上着を脱いだ。ビキニタイプのシンプルな水着が、痩せた身体によく似合う。


「ママーっ、水かけっこしよ!」


 真夏の一人息子、裕太は来年から小学生だ。

 さっきまで砂で山を作っていたかと思えば、砂山を踏み崩して水かけっこを始め、真夏に、海水を浴びせかける。

「裕太、塩辛いよ!」

 真夏も笑顔で海水を裕太にかけた。砂浜のパラソルでは、夫の昌彦が二人を愛おしそうに見つめている。


 真夏が高校3年生の時に、真夏の妊娠が発覚した。

昌彦は、真夏が高校1年生の時に通っていた塾の英語の大学生講師だった。真夏が高校2年生になる頃、昌彦は大学を卒業し、就職した。昌彦は真夏の両親と会ったことがなかったので、真夏の両親は、最初はとても怒っていた。

 しかし、昌彦が真夏の両親に挨拶し、昌彦の誠実な人柄と、安定した収入があることを知り、真夏の両親も、二人の仲と裕太の育児を応援してくれるようになった。真夏は、進学校に通っていたが、大学には進学せず、専業主婦となり、裕太を出産した。裕太が幼稚園に入る頃から、心にも少しずつ余裕が生まれ、図書館で実用書を借りてきては、裕太の洋服を作ったり、簡単なお菓子を作ったりした。昌彦は優しいし、裕太もとても可愛い。このまま、真夏の人生は穏やかに、幸せに終わっていくものと、真夏は思っていた。


「もしかして、加藤真夏?」

「あれ、大星?」


 この瞬間までは。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る