第7話 2人の別れと大事な約束
一方、占い師を探していたレヴィンはついにその張本人を見つる。突然空から降下して目の前に現れた大男を目にした老婆は、腰を抜かさんばかりに驚き目を丸くした。
「な、何だいあんたは!」
「お前か、ハルをいじめるように仕向けたのは」
レヴィンは腕を組んで仁王立ち。行く手を阻むようににらみをきかせる。その偉そうな態度からスルーする事は出来ないと踏んだ占い師は、目の前の大男の頭に生えた角に注目する。
「ふん。何だか分からんが、お前さんは悪魔だね。この私を稀代の悪魔使い、ローレンス宮城と知ってやってきたんだろうね?」
「お前の名など知らぬわ」
「私の悪魔達、こいつをコテンパンにしてやりな!」
自称悪魔使いの占い師、ローレンス宮城が号令をかけると、彼女の背後から様々な姿の10体の悪魔が次々に現れる。悪魔使いと言うのも伊達ではないようだ。宮城の命令を受けた悪魔らは一斉にレヴィンを取り囲む。
パラクトスはすぐにレヴィンの正体に気付いてそれなりの態度を取ったものの、今回現れた10体は魔王の事すら知らない低級なものばかりだった。
「何だあお前は」
「宮城様に楯突くとは馬鹿な奴め」
「殴りがいのありそうな顔してやがるなあ」
「思いっきりかわいがってやるぜえ」
10体の悪魔はそれぞれの得意攻撃を容赦なくレヴィンに向けて放つ。しかし、彼に低級悪魔の攻撃は効かない。レヴィンは自身の体に纏っている力を爆発させ、一瞬で雑魚悪魔達を行動不能にした。
自慢の悪魔達があっさりと倒されてしまい、宮城はガタガタと声を震わせる。
「何故じゃ、何故お主はそこまで強い……」
「吾輩、魔王だからな!」
「ま、魔王様……ヒイイ!」
自分の前にいるのが自分の力では到底敵わない存在だと分かり、すっかり怯えきった宮城はその場で腰を抜かす。レヴィンは顔面蒼白している老婆の前に立ち、ずいっと顔を近付けた。
「もうこんな事はするな。またやったら次はないぞ」
「ヒイイ! お助け~っ」
恐怖がマックスに達した宮城はそのまま気絶。稀代の悪魔使いも、もうこれで悪事を働く事はないだろう。レヴィンは白目をむいて倒れた哀れな老婆を目にして、軽くため息を吐き出した。
「聞いちゃいないか」
こうして、全てのクエストを終えた彼はハルカのもとに戻る。彼女が本心から望みが叶ったと思って初めてレヴィンは魔界に戻れるのだ。だから、この報告は最後の大切なプロセスとなる。
家の玄関前に降り立ったところで、彼を待っていたハルカが駆け出してきた。
「レヴィン、お帰りっ!」
「占い師も懲らしめてきた。これでお前の望みも叶えたよな」
「うん、ありがとう!」
「タダ働きにはなってしまったが、これで帰れるなら安いも……」
レヴィンが最後まで言い終わらない内に、ハルカがちょいちょいと手招きする。彼が首を傾げながらしゃがんだところで、ハルカはレヴィンの頬にキスをした。
「お、おい……」
「ごめんね、ほっぺたで」
「いや、いい。これで十分だ」
彼女からの対価を得たレヴィンはすっと立ち上がると、照れ隠しなのか手ぐしで髪の毛をなでつける。そうして、ハルカに向かって優しく微笑みかけた。
「これからも、困ったらいつでも吾輩を呼ぶが良いぞ」
「うん」
彼女の返事と同時に、魔王の姿はすうっと消えていく。気が付けば、有り触れた夕景だけがハルカの瞳に映っていた。
1人になった彼女の目から、すうっと一筋の涙が流れる。
「さよなら……魔王様」
ハルカはしばらく赤い空を眺めていたものの、暗くなってきたので家に戻った。靴を脱いだ彼女はまっすぐに姉のもとへと向かう。ドアを開けたハルカは、部屋の片付けをしていたナツキに今日起こった出来事を告げた。
「え? あいつ帰ったの? 部屋がぐちゃぐちゃになったの直させようと思ったのに……まぁいいか」
「お姉ちゃん……事情、話すね」
「いや、いいよ。もう解決したんでしょ。ならそれでいいじゃん」
ナツキはレヴィンがいなくなった事をあっさりと受け入れて、ハルカの頭を優しくなでる。妹が悪魔を召喚してでも叶えたかった事は無事に叶った。それをレヴィンの帰還から読み取って一安心したのだ。
翌日、昨日までのいじめが嘘みたいに平和な日常が戻ってくる。いじめが全て悪魔の洗脳だったために、当時の事を覚えているのは利用されていたアキラくらい。その彼女とも仲直りしたので、もうハルカの表情が曇る事はなかった。
悪魔を呼び出す必要はなくなったものの、彼との日々を思い出して淋しくなると、ハルカは時折あの空き地に行って魔法陣を描いた。けれど、その召喚が成功する事は二度となかったのだった。
それでも、彼女が本当に困った時にはきっと――。
(おしまい)
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