魔王召喚! 願いを叶える対価はキス?!
にゃべ♪
第1話 魔王を召喚しちゃった?
ここは穏やかな海辺の街、舞鷹市。その街の外れにある空き地で小学生の女の子がホウキの柄で地面に図形を描いていた。大きな円を同心円状に2つ。その円の外周の内側に不思議な文字を書いていく。この作業が終わると、今度は内側の円の中に幾何学模様のような図形を描いていった。
そう、それは魔法陣と呼ばれるもの。彼女は魔法陣を描いて悪魔でも召喚するつもりなのだろうか。
魔法陣が描けたところで、女の子はその正面に立ってメモ帳を開いた。
「えっと、ル・キース・ノヴァ・イラク……我の求めに応じ、現れ給え……」
召喚呪文はメモ帳にたっぷり2ページ分はあったので以下は省略。とにかく、その言葉を唱えた後、彼女はしばらく待っていた。呪文詠唱後も魔法陣には何の変化もなく、街外れで何の音も聞こえない環境は女の子をとても不安な気持ちにさせたのだった。
「やっぱ才能がないとダメなのかなぁ……」
時計を確認すると、この空き地に来てから1時間が過ぎていた。この1時間を区切りにして、彼女は今回の召喚を失敗と判断して儀式を終了。家に帰ろうとした。
その時、女の子の背後でボウンと小さな爆発音が響く。驚いた彼女がすぐに振り返ると、魔法陣の中心で土埃が発生していた。
「えっ? 嘘……?」
この突然の展開に、女の子は思わず持っていたホウキを手放す。魔法陣が発動したと言う事は、悪魔が召喚された事を意味していた。確かに、土埃の中心には誰かがいる気配がある。
好奇心に駆られた彼女は、ゆっくりとその謎の影に近付いていった。
「えーと……。誰かいらっしゃいました?」
「誰だ! 吾輩を呼び出したのは! まだランチも食べておらぬのだぞ!」
「ヒイイイッ!」
いきなり怒鳴り声が聞こえてきて、女の子は体が硬直する。その頃には土埃はすっかり消えていて、その怒号の主をしっかり視認出来るようになっていた。
彼女が魔法陣から召喚したのは、見た目の年齢が20代前半くらい、身長が180センチくらいでいかつい鎧を着た、頭にそれっぽい立派な角を2本生やした大男。とは言え、ムキムキマッチョマンと言う程でもなく、細マッチョと言った感じだ。
基本ブラックがベースの鎧はとても立派で、つやつやと光をよく反射している。肩当ての後ろには真紅のマントも装備されていた。いきなり召喚された事で感情が高ぶっているのか、その表情は怒りの形相でとても怖い雰囲気だ。
視界がクリアになった事で、その悪魔もまた召喚主の女の子の姿をじいっと見つめる。
「お前が吾輩を呼んだのか!」
「ごめんなさい! わたしですー!」
初めて出会った悪魔に驚いた彼女は、反射的に頭を下げる。悪魔を召喚した場合、基本的には召喚主の方が立場が上になるのだけれど、女の子はその法則を知らなかったのだ。
召喚主を確認出来た悪魔は、フンと胸を張ってふんぞり返る。
「吾輩は魔王リ・ガ・レヴィウス2世だ。王を呼ぶとは畏れを知らぬやつめ!」
「まままま、まおうーっ!?」
「偉大なる我輩を呼び出したお前の名を申せ!」
「わわわわわたしはハルカですうー。みんなからはハルって呼ばれててますうー!」
なんと、ハルカは魔王を召喚していたのだ。彼女が魔王を呼び出したくて呼んだのではない事は、その怯えた態度からも分かるだろう。ハルカの様子から状況を察した魔王は、フンと鼻を鳴らす。
「なるほど、読めたぞハルよ。お前、本当は吾輩より低級な悪魔を呼ぶつもりだったのであろう?」
「いやあの、だ、誰でも良かったんです」
「誇れ! お前には魔王たる我輩を呼び出せる資質があったのだ!」
「え……あの……はい」
ふんぞり返った魔法は高らかに笑う。機嫌が良さそうだったので、ハルカは安心して胸をなでおろした。ひとしきり笑った魔王は、しかしそこで表情を真顔に戻す。
魔王らしい強く冷徹な眼差しを注がれて、ハルカは体が硬直した。
「資質はともかくとしてだ。吾輩でならぬ必要がないのなら今すぐ魔界に戻せ」
「あの、戻し方は分かんないです……ごめんなざいいいい」
「何……だと?」
「ごめんなさいいいい」
ハルカは涙目になりながら何度も何度も頭を下げる。そんな彼女を見た魔王は、腕を組んで大きくため息を吐き出した。
「戻し方も知らずに召喚の儀式をしたのか……。吾輩はまだ温厚だから良いが、悪魔によってはお前のような小娘ただじゃ済まぬぞ」
「ごごごご、ごめんなさいいいい」
「分かったから泣くな、謝るな。で、お前は悪魔を召喚して何がしたかったのだ」
「え?」
ハルカは、魔王が自分の望みを聞いてきて少し混乱する。彼女は恐る恐る彼の顔を見た。そこにはもうさっきのような怖い顔ではなく、少し困ったような表情を浮かべる魔王の姿があった。
「吾輩も呼び出された以上は自らの力では戻れぬのだ。戻るには召喚主の願いを叶えねばならぬ。だからお前の望みを言え。吾輩が直々に叶えてやろう」
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