パリのカフェオレ

#色鉛筆スロット 「パリのカフェオレ」


 すっかり人気ひとけのなくなった街に、どこから飛んできたのか皺くちゃの紙が風に引きずられていく。何とはなしに目で追っていると香ばしい香りが鼻をくすぐった。

 視線を戻すと小さなカフェ。


「店主さん?」

「いいや」


 こちらには目もくれず一心にコーヒーを淹れている。


「私にも」


 赤い瞳を細め、口の端をほんの少しだけ上げた彼。


「物好きだな」

「貴方も」


 店内は綺麗に片付いていた。

 テーブルと椅子は整然と並び、黒板にメニューまで並んでいる。

 立ち寄る『人』はもういないのに。


「『お客』は来るの?」

「いいや」


 差し出された縁の欠けたカップには思いがけず白で薄められた琥珀色が。

 何のミルク?

 まず、野暮な疑問を飲み込んだ。

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