転移
地下の部屋に入れられてから数日。
ベンジャミン以外の隊員とは必要最小限の事しか話さない。
貧乳の隊員の胸を
だが、そのおかげで、私にはベンジャミンから聞いた話を整理し、考える時間は沢山あった。
それにしても、彼から知識を吸収すればするほど、彼への罪悪感は増すばかりだ。
現在私は記憶喪失という設定になっている。が、実際のところはそんなものではなく、単に知らないだけだ。
何故か。
答えは簡単。私が数日前にこの世界に出現したばかりの転移者だからだ。
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私、リリー・ブラウンは、前世は
私は『神』を名乗る人物からスカウトされてこの世界にやってきた。
夢の中で話しかけてきたと思ったら本当に転移してしまうのだから、『事実は小説よりも奇なり』とは良く言ったものだ。
転移者が知識を使って無双する話に飽きていた私は、本当に最小限の情報のみでこの世界に転移した。
簡単に言うと、この世界は幽霊――ここでは単に『霊』と呼ばれている――の出る世界だ。
動物――人間も含む――の
ものによっては見た目は動物そのままの時もあるらしいが、霊は全て身体が
その霊を
何故私がスカウトされたかと言えば、
『これからの時期、優秀な霊能者と凶悪な犯罪者が共に現れ、この世界は犯罪者によって恐怖に支配される』
らしく、それを防ぐためだそうだ。
その結果、こうして実際に転移してきた、という訳だ。
大分若返った上で、だが。
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転移した私は、早速霊に襲われたところをベンジャミン達ミネス軍に助けられ、今もこうして地下の部屋で生活している。
ベンジャミンは生活のサポートと称していたが、彼らは要は監視役だろう。ま、追い出されたり処刑されたりするよりは余程マシだ。
ベンジャミンとの対話によって、この世界の常識は大分集まってきた。
まず、今私がいるのはアイリア国の中央やや南寄りに位置するミネスという街で、私が転移した森はミネスの東の外れにあるハイダ森というそうだ。
その森を北東に抜けるとこの国の都・シエラに着くらしい。
周囲にもいくつか国はあるらしいが、この国が圧倒的に栄えていて、人口も多いそうだ。
生活面では電気やガスはなく、灯りはランプや
食事はパンが主食である事が多く、お米はたまに出てくる程度で、肉も毎日食べられるわけではないらしい。
野菜の種類も少ないようだ。
異なる時代を生きている実感が湧くね。悪くない。
また、彼は霊についても丁寧に教えてくれた。
その強さは七段階でランク付けされており、弱い方からE、D、C、B、A、S、SS、となっている。
レベルEはより人間に近い見た目をしているが、レベルが上がると肥大化して、触手が生えていたり翼があったりと、とても元が人間だったとは思えないような見た目になるようだ。
ただ、私が襲われたのは少し特殊なものだったらしい。
あの触手の生えた人間は《
霊の怨念が生者の想いと共鳴した時のみ、憑依人間は誕生するとの事。
要は、
レベルは最低でもC以上と
……なんで転移したばかりの私が襲われるねん。
因みに人間以外の動物に霊が憑依した場合は《
また、霊と同様に霊能者も弱い方からE、D、C、B、A、S、SS、とランク付けされている。半年に一回『霊能者階級検定』というものがあり、そこでランク付けされるそうだ。
その人口割合はピラミッド型になっており、多くの霊能者がEかDで、SSは百年に一度の逸材とまで呼ばれているらしい。
ミネス軍の総司令官であるアンドリュー・マーフィーはS級で、ベンジャミンはC級。
ベンジャミンとともに私を霊から助けてくれた薄紫色の髪の毛を持つ女性、グレイス・キャンベルと、同じく助けてくれた銀髪の男性、ネイサン・ヘンダーソンはB級だそうだ。
司令強いな。
軍の中でもB級以上になれる者は少なく、主に
なりたい。その精鋭班に。
最後に、技についても彼は教えてくれた。
まず、霊術には色々な技があり、それらは『
その中でも基本となる技がいくつかあり、
霊力を球状に凝縮させて放つ低難度攻撃技、《
霊力をブーメラン上にした切れ味の鋭い低難度攻撃技、《
霊力をビームのように出す中・高難度攻撃技、《
霊力を四角い壁型に凝縮させて盾とする低難度防御技。《
霊力を自分の周囲に球状の結界のように
といった技がそれに
私は自称神からすでに《聖域》の情報媒体は貰っており、それのお陰でベンジャミンが来るまで耐える事が出来た。
それにしても、転移してすぐに襲われた憑依人間は、まさに恐怖の塊だった。
あの自称神は、
『転移する場所は分からん! いきなり危険なところに転生する事はないが、森の中や砂漠の中ならあるかもしれんな!』
とか抜かしてやがったが、もう少しベンジャミン達が来るのが遅かったら、私は死んでいたぞ。
そもそも森とか砂漠に食料も持たずに転生する事自体危険だし、あの神はなかなかふざけた神だったようだ。
「まあ、今となってはどうでも良いけど」
そう呟いて、私は布団に横になって目を閉じた。
この部屋に来てから、ずっと体に
————————
「っ……!」
監視のためにリリーの部屋に入ったベンジャミンは、目の前の光景の息を呑んだ。
リリーが、部屋の入口の方を向いて寝息を立てていたのだ。
ふっくらとした白い頬、赤い唇、髪と同じ黄色の眉毛。
「か、可愛い……」
思わず呟いてから、ベンジャミンはハッと我に返った。
リリーが規則正しい寝息を立てている事を確認して安堵の息を吐き、リリーを間接視野に入れながら椅子に座る。
女子の寝顔は見てはいけないというのは、グレイスからの入れ知恵だ。
……この気持ちはやはり、恋、というものなどろうか。
————————
それからしばらくして、リリーは目を覚ました。
「う……ん」
身じろぎをして、身体を起こしている。
「おはよう」
「ああ、ベンさん……おはようございます」
まだ脳が覚醒していないのか、リリーはむにゃむにゃ言っている。可愛い。
それから顔を洗うなどしてリリーの目が覚めた後は、二人で雑談に興じた。
リリーは時々ベンジャミンの知らない言い回しを使うので、彼女との対話は面白いだけでなく勉強にもなる。
ふと会話が途切れた時、リリーがベンジャミンの名を呼んだ。
「ベンさん」
その表情と声色で、何か真剣な話をしている事は察せられた。
「何?」
「今、私が発見されてから何日経ちました?」
「えっと―……、六日、かな」
「そうですか」
リリーが顎に手を当てる。
十秒程経った後、彼女は口を開いた。
「一つ、お願いがあります」
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